化学流産は自己卵子でも卵子提供でも変わらない(Hum Reprod. 2024)

生化学的妊娠(化学流産)は検査方法や測定する時期にもよりますが、全妊娠の5~26%で起きているとされています。さまざまな研究から、染色体異常を含めた卵子・胚の質、肥満、飲酒などの母体因子、免疫学的や血栓症などの不育症で認められる素因、精子の質、子宮内膜胚受容能のずれなどが病態と考えられていますが、今のところ明確な答えには行きついていません。
今回、自己卵子・提供卵子由来を含めたPGTやERAを行った際の生化学的妊娠割合を報告した調査がでてきましたのでご紹介いたします。

≪ポイント≫

凍結融解胚移植後の生化学的妊娠率は、自己卵子と提供卵子の間で差はありません。

≪論文紹介≫

E Munoz, et al. Hum Reprod. 2024 May 22:deae106. doi: 10.1093/humrep/deae106.

PGT-A、ERAによる個別化胚移植、提供卵子の使用は、凍結融解胚移植における生化学的妊娠(化学流産)率に影響を与えるかどうかを調査したレトロスペクティブコホート研究です。2013年1月から2022年1月に自己卵子由来(2,399周期)および提供卵子由来(1,342周期)の凍結融解単一胚移植3,741周期における生化学的妊娠率を分析しました。自己卵子由来年齢は未試験 36.3歳:950症例、PGT-A 38.2歳:1,310症例、ERAを用いたpET 35.2歳:30症例、PGT-A+ERAを用いたpET 38.2歳:109症例でした。提供卵子由来年齢は未試験 40.3歳:1055症例、PGT-A 41.0歳:132症例、ERAを用いたpET40.1歳:140症例、PGT-A+ERAを用いたpET 40.2歳:15症例でした。
胚盤胞移植後11日目(4週2日)に血清β-hCGを測定し、7-10日後(5週2日から5週5日)に経膣超音波検査で胎嚢を確認しました。妊娠判定で血清β-hCG値>10 UI/lであり、妊娠5週にて経腟超音波検査で胎嚢が認められず、血清β-hCGの低下が確認された場合に生化学的妊娠と診断しました。着床率は、経腟超音波検査での胎嚢数を移植胚数で割ったものと定義しました(Zegers-Hochschild et al.)
結果:
自己卵子由来の全生化学妊娠率は8.2%(95%CI[7.09-9.33])でした。未検査胚移植で7.5%[5.91-9.37]、PGT-Aで8.8%[7.32-10.47]、ERAを用いたpETで 6.7%[0.82-22.07]、PGT-A+ERAを用いたpETで6.5%[2.65-12.90]でした。群間で有意差は認められませんでした(P = 0.626)。多変量解析でも、PGT-Aでの調整オッズ比は1.154[0.768-1.735](P = 0.49)、PGT-A+ERAを用いたpET では0.885[0.330-2.375](P = 0.808)でした。提供卵子由来の全生化学的妊娠率は4.9%[3.76-6.14]でした。未検査胚移植で4.7%[3.46-6.10]、PGT-Aで6.8%[3.16-12.55]、ERAを用いたpETで 5.0%[2.03-10.03]、PGT-A+ERAを用いたpETで0%[0.00-21.80]でした。群間で有意差は認められませんでした(P = 0.578)。多変量解析でも、PGT-Aでの調整オッズ比は1.669[0.702-3.972](P = 0.247)、ERAを用いたpET では1.189[0.433-3.265](P = 0.737)でした。多変量解析において、自己卵子由来と提供卵子由来を比較しても生化学的妊娠率に差を認めませんでした。

≪私見≫

あくまで、今回の生化学的妊娠率は凍結融解胚移植での成績であり、自然妊娠の生化学的妊娠率を反映したものではありません。
今回の報告も過去の報告もあわせて評価すると生化学的妊娠率は正常核型胚でも8%前後はありそうですね。未試験データや提供卵子由来データをみても、35歳くらいまでの生化学的妊娠率を聞かれたら5-10%程度とこたえるのが無難そうです。

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文責:川井清考(院長)

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