不育症患者へのヒドロキシクロロキン併用治療予後(Hum Reprod. 2024)

ヒドロキシクロロキンは、当初は抗マラリア薬として開発されましたが、全身性エリテマトーデスを含む自己免疫疾患の治療に広く使用されています。ヒドロキシクロロキンは直接的および間接的な免疫調節作用を有し、原因不明反復流産に対して有効である可能性があります。ヒドロキシクロロキンは抗原プロセシングと抗原提示、それに続くT細胞の活性化、炎症性サイトカインの産生を阻害します。また、特に抗リン脂質抗体の結合と血小板凝集を阻害することにより、内皮機能障害と凝固亢進の両方を軽減し、血管保護作用を示します。これらの作用から、欧州リウマチ学会(EULAR)の推奨のひとつとしてアスピリン+ヘパリン療法で奏功しない治療抵抗性抗リン脂質抗体症候群の治療の一つとしてヒドロキシクロロキンを加えることが推奨度Dではあるが、ヘパリンの増量、低用量プレドニゾロン、免疫グロブリンとともに考慮されうると記載されています。ただ、反復流産患者に治療効果として、まだまだデータが不足しているため、ヒドロキシクロロキンを使用した反復流産患者の治療予後報告が発表されましたのでご報告いたします。

≪ポイント≫

過去の流産回数が多い症例では、ヒドロキシクロロキンを用いて生児出生に到達することが困難であることがわかりました。

≪論文紹介≫

Amandine Dernoncourt, et al. Hum Reprod. 2024 Jun 28:deae146. doi: 10.1093/humrep/deae146.

妊娠前または妊娠初期にヒドロキシクロロキンを併用した反復流産女性の妊娠転帰を評価し、ヒドロキシクロロキンがどのような症例に有効かを同定することを目的としました。
ALCO登録に登録された過去に3回の妊娠初期流産を経験した自然妊娠女性74名100症例を検討項目としました。妊娠において、ヒドロキシクロロキンは1日400mgの用量で使用しました。71症例(71%)では、ヒドロキシクロロキンの投与は妊娠前に開始され、妊娠前併用期間の中央値は8.7週でした。他の29症例(29%)では、妊娠確認された時点(6週前)に開始されました。プレドニゾン併用は78症例(78%)で投与量中央値は1日10mg、低用量アスピリン併用は56症例(56%)、ヘパリン併用は41症例(41%)でした。抗リン脂質抗体陽性(n=13)については、2症例(15.4%)が低用量アスピリン併用、5症例(38.5%)がヘパリン併用、2症例(15.4%)が低用量アスピリン+ヘパリン併用、4症例(30.7%)がどちらも併用しませんでした。
主要評価項目は12週を超える妊娠継続、副次評価項目は生存出生としました。
結果:
女性の平均年齢は34.2歳で、過去流産回数中央値は5回でした。62症例(62%)妊娠は12週以内に流産となり終了し、残りの38症例(38%)は妊娠継続できました。流産リスクは、流産回数既往とともに増加しましたが、年齢では増加しませんでした。反復流産検査異常および他薬物の割合は妊娠継続群・流産群で同程度でした。卵巣予備能が低下していない、自己抗体が少なくとも1つ陽性(抗核抗体力価が1:160以上、従来型・非従来型の抗リン脂質抗体が1つ以上陽性、抗甲状腺抗体が1つ以上陽性)である女性の妊娠継続率(18/51、35.3%)は、抗体がすべて陰性の女性の妊娠継続率(18/45、40.0%)よりも高くなりませんでした(P = 0.63)。多変量解析によると、女性年齢と妊娠前ヒドロキシクロロキン使用期間を調整した後、4回以下流産既往であることが妊娠継続することの唯一の予測因子でした(aOR=3.13[1.31-7.83]、P=0.01)。

≪私見≫

対照群がない報告ですが、保険適用外で国内使用経験が中々報告されない薬剤でしたので参考になりました。今回の結果は、難治性反復流産患者にヒドロキシクロロキンが、そこまで有効ではなさそうという結果と考えて良いかなと思っています。 もともとヒドロキシクロロキンは全身性エリテマトーデス合併抗リン脂質抗体症候群に有効だと使用されるようになりましたが、全身性エリテマトーデスに有効か、抗リン脂質抗体症候群に有効かわかっていません。 2022年Moiniらの報告では、ヒドロキシクロロキンの流産率減少が単変量結果では認めましたが、調整後は差を認めることができませんでした。現在、ランダム化比較試験のBBQ study、ILIFE studyが行われていますので、こちらの結果待ちかなと思っています。現段階では難治性不育症患者に考慮されうる検査のひとつではありますが、最近エビデンスが構築されつつある免疫グロブリン治療などを超える薬剤療法とはなり得なさそうです

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文責:川井清考(院長)

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