体外受精成績向上に精液暴露は奏功せず(Fertil Steril. 2024)

1980年代以来、体外受精における着床率を向上させるために精漿(精液の液体成分)が提案されてきました。動物実験・ヒト研究でも、精漿に含まれる免疫因子である炎症性サイトカイン(IFNγ、IL6、IL8など)や免疫寛容活性因子(TGF-βなど)が子宮内膜受容能に影響を与えることがわかっています。示されています。体外受精の着床率改善に精漿が良い方向に影響するかどうか質が高い研究が求められ、今回やっと二重盲検ランダム化比較試験が報告されました。

≪ポイント≫

採卵当日に精漿を腟内に投与しても着床率に良い方向には作用しなさそうです。

≪論文紹介≫

Susanne Liffner, et al. Fertil Steril. 2024 Jul;122(1):131-139. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.02.002.

調製した精漿の膣内投与が体外受精の生児出生率をプラセボ群と比較して増加するかどうかを検討する二重盲検ランダム化比較試験です。Intention-to-treatプロトコルにて実施し、盲検の状態で評価・解析をおこないました。
単一大学病院で5年間リクルートした体外受精を予定している計792組(精漿群393組、生食群399組)を対象としています。精漿群は採卵当日に、調製した精漿を腟内投与、生食群は生理食塩水を腟内投与とし、医師にも患者にも知らせず無作為に割り付けられました。主要評価項目は生児出生率としました。副次評価項目は、妊娠検査陽性(採卵後3週間での尿中hCG陽性)、臨床的妊娠としました。
結果:
精漿群では、35.4%が妊娠検査陽性(RR 0.93;95%CI 0.78-1.10)、28.8%が臨床的妊娠(RR 1.00、95%CI 0.97-1.03)、26.5%が生児出生(RR 0.86、95%CI 0.70-1.07)となりました。(移植日、女性年齢、受精胚数で調整)。生食群ではそれぞれ37.3%、33.6%、29.8%でした。2群間で差は認められませんでした。

≪私見≫

この報告はIntention-to-treatプロトコルですが、条件がほぼ揃っていて質が高い研究だと思っています。精漿群が、生食群に比べて10%の生児出生率増加を見込んで実験デザインを組んでいますが、むしろ横ばいという結果に終わっています。
2018年のコクランでも臨床的妊娠のわずかな増加(RR 1.15、95%CI 1.01-1.31)が示されていましたが、この検討でもバイアスリスクを調整した検討では増加はなくなりました(B. Ata, et al. Cochrane Database Syst Rev, 2018)。
今回の論文結果を加えると、次回のコクランでは精漿暴露の優位性はより強く否定されると考えています。

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文責:川井清考(院長)

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