マイクロ流体技術を用いた精子選別は胚盤胞正常率を改善しない(Fertil Steril. 2024)

マイクロ流体技術を用いた精子選別を行うと、精子DNA断片化率が低い精子を選択できることから、精液所見が好ましくない、もしくは反復不成功の患者に対して密度勾配遠心法より有効であったという報告は複数でています。
ただ、さまざまなバイアスがあるため、質が高いランダム化比較試験が必要と考えられていました。今回、精液所見がシビアではない症例のsibling oocyteによるマイクロ流体技術を用いた精子選別と密度勾配遠心法を用いた精子選別を用いた胚発生を比較したランダム化比較試験が報告されましたのでご紹介いたします。

≪ポイント≫

マイクロ流体技術を用いた精子選別と密度勾配遠心法を用いた精子選別で、胚発生はほぼ変わらないことがわかりました。

≪論文紹介≫

Prachi Godiwala, et al. Fertil Steril. 2024 Jul;122(1):85-94. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.02.021.

マイクロ流体技術を用いた精子選別と密度勾配遠心法を用いた精子選別で、sibling oocytesからの発生した胚盤胞の異数性を比較することを目的とした単一医療施設で実施されたランダム化比較試験です。
2021年1月から2022年4月までにPGTを実施した18~42歳女性106周期1,442個の成熟卵子を用いて検討しました。評価項目は胚の正常核型率、受精率、良好胚盤胞形成率、妊娠継続率としました。
結果:
成熟卵子あたりの胚盤胞正常核型割合は2群間で差はありませんでした(22.9% vs. 20.5%)。生検胚1個あたりの胚盤胞正常核型割合も同等でした(53.0% vs. 45.7%)。正常受精率は、マイクロ流体技術を用いた精子選別の方が高くなりました(76.0% vs. 69.9%)。成熟卵子あたりの良好胚盤胞率、凍結胚数も差はありませんでした。生検胚がなかった患者の割合、胚盤胞正常核型がなかった患者の割合も差がありませんでした。77周期で凍結融解胚移植を実施していますが妊娠転帰も差がありませんでした。
症例は新鮮射出精子(量 >1.5mL 濃度 >500万/mL)であり、卵子数が8-30個症例を選択しています。

≪私見≫

マイクロ流体技術を用いた精子選別によって、胚異数性の改善に繋がらなかったのは大きな部分を卵子側に由来するからだと考えられます。
体外受精治療周期において密度勾配遠心法を用いた精子調製は長らく行われていきましたが、マイクロ流体技術を用いた精子選別(ZyMōt)は使用が簡単であり、今後普及をする可能性があります。国内でも先進医療Aに登録されています。ただ、費用がかさむわけですので、今回の結果を通しても言えることですが、多くの症例で必要ではない可能性が高いと判断しています。

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文責:川井清考(院長)

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