胚移植手技は治療成績に影響(Hum Reprod. 2020)

どのような胚移植手技が妊娠成績を落とさないか?
子宮内膜にダメージを与えることを最小限にすること、子宮収縮を誘発するような刺激を与えないこと、胚を壊すような移植を行わないこととされています。当然のことを書いていますが、実際、何千件と胚移植を行っていても患者様ごとに子宮の状態も異なりますので簡単なことではありません。
どの程度、胚移植手技者によってばらつきがあるのか調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

胚移植手技は生殖医療成績に影響を与えますが、経験数が治療成績に寄与するわけではなさそうです。

≪論文紹介≫

F Cirillo, et al. Hum Reprod. 2020 Feb 29;35(2):275-282. doi: 10.1093/humrep/dez290.

妊娠継続率が胚移植手技者に依存するか、また経験は胚移植成績を改善するかどうか調査した報告です。1996年1月から2016年12月にHumanitas Fertility Centerで実施された全ての新鮮胚移植を含むレトロスペクティブ解析です。
32名の胚移植手技者によって行われた新鮮胚移植、全19,824周期を解析しました。経腹超音波ガイド下で、胚がローディングされたソフトカテーテルを子宮腔内にフリーハンドで挿入するすべての移植を対象としました。女性年齢、FSH、回収卵子数、受精率、実施年、移植胚数とステージ、胚移植手技者の経験を考慮し、ロジスティック回帰モデルを用いて、胚移植手技者間の妊娠継続率の不均一性を推定しました。次に、経験数と妊娠率の関係をロジスティック回帰により各手技者について個別に推定し、手技者別の結果をランダム効果メタ解析で統合して比較しました。なお、この施設では30-50件の胚移植を上級医管理下で実施してから独り立ちしています。
結果:
胚移植手技者間による成績のばらつきは非常に有意であり(P<0.001)、全ばらつきの44.5%を説明できました。平均値に対する下手な胚移植手技者の成功オッズ比は0.84でした。上手な胚移植手技者の成功オッズ比は1.13でした。胚移植手技者の経験数が増えても成績向上は認めませんでした。

≪私見≫

胚移植実施医ごとの成績のばらつきは意外と大きくないとする報告もありますが、やはり一定基準を満たさないと成績は安定しないというのがコンセンサスかと思います。
この報告では新鮮胚・初期胚移植ですが、ASRM annual meeting 2016にS.J.Morinらが正常核型胚盤胞でも医師間の成績を比較していますが、成績に差があるとしています(https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(16)61486-3/fulltext)
体外受精を行うスタッフの育成指標であるthe Maribor consensus では、胚移植は75周期のトレーニング後に独り立ちするように推奨されています。

#生殖補助医療
#移植手技
#妊娠継続
#ばらつき
#亀田IVFクリニック幕張

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

亀田IVFクリニック幕張