子宮内膜症とメンタルヘルス(Am J Obstet Gynecol. 2024)

子宮内膜症は慢性疼痛をはじめ生活の質の低下をもたらし、メンタルヘルスに影響を及ぼすとされています。ただ、現在までの検討は外科的診断によるものがおおく、外科介入がない診断症例にたいしてメンタルヘルスとの関連がわかっていませんでした。今回、内科学的診断・外科的診断をわけて、子宮内膜症とメンタルヘルスとの関連を調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

子宮内膜症の女性は、子宮内膜症の診断方法に関わらず、メンタルヘルス疾患と診断される可能性が内膜症のない女性に比べて約1.3倍高くなりました。最大追跡期間12.5年終了時に、子宮内膜症女性におけるメンタルヘルス関連疾患の累積発生率が67%となりました。

≪論文紹介≫

Peter S Thiel, et al. Am J Obstet Gynecol. 2024 Jun;230(6):649.e1-649.e19. doi: 10.1016/j.ajog.2024.01.023.

子宮内膜症とメンタルヘルスとの関連を評価し、内科的に診断された患者と外科的に診断された患者との違いを評価することを目的にしました。
2010年1月1日から2020年7月1日に子宮内膜症と診断された18~50歳の患者を対象として、カナダのオンタリオ州で集団ベースの後ろ向きコホート研究が実施されました。子宮内膜症の診断は、内科的診断基準または外科的診断基準のいずれかによって決定されました。子宮内膜症女性は、子宮内膜症既往のない女性と、年齢、性別、地域について1:2でマッチさせました。主要評価項目は、子宮内膜症診断後の精神疾患の初発としました。精神疾患は、うつ病、不安、薬物使用障害、精神病、故意の自傷行為、およびその他(摂食障害、注意欠陥多動性障害、人格障害など)としました。研究参加前の2年間に精神疾患の診断を受けた女性は除外しています。
結果:
子宮内膜症と診断された35,944名(内科学的に診断された29.5%、外科的に診断された60.5%、内科学的に診断されてから外科的に確認された10.0%)と、内膜症既往がない71,888名、合計107,832名を対象としました。調査期間中の発生率は、子宮内膜症群では1,000人にあたり105.3件/年、子宮内膜症既往なし群では1,000人あたり66.5件/年でした。子宮内膜症既往なし群と比較して、メンタルヘルス診断の調整ハザード比は、内科学的に子宮内膜症と診断された女性では1.28(95%CI、1.24-1.33)、外科的に診断された女性では1.33(95%CI、1.16-1.52)、内科学的に診断され、その後外科的に確認された女性では1.36(95%CI、1.2-1.6)となりました。メンタルヘルス診断を受けるリスクは、子宮内膜症の診断後1年目が最も高く、その後減少しました。通院を必要とする重度の精神疾患の累積発生率は、子宮内膜症患者で7.0%、未発症者で4.6%でした(HR、1.56;95%CI、1.53-1.59)。

≪私見≫

子宮内膜症女性におけるメンタルヘルス関連疾患の累積発生率が67%とみると高く感じますが、子宮内膜症と診断されていない群での累積発生率も52%あるため、今回調査したメンタルヘルス関連疾患が軽微なものまで含まれていると考えていいのだと思います。子宮摘出女性、妊娠既往女性、不妊既往女性ではHRが低く出ています。今回の検討では内膜症診断後のメンタル関連疾患の初発をとらえた報告なので、事前診断が除かれているのが影響しているのかもしれません。

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文責:川井清考(院長)

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