不育症/体外受精女性の分娩前後のうつ状態(J Reprod Immunol. 2022)
産後うつ病(PPD)は、日本では女性の約10%が罹患しているとされています(Yamashita et al. 2000)。精神疾患既往、肥満、妊娠中および妊娠前のうつ病、妊娠中の不安、低所得、ストレスの多いライフイベント、社会的サポートの欠如が産後うつ病の危険因子であると報告されている。
日本の環境省が実施するエコチル調査(全国規模の出生コホート研究であるJapan Environment and Children's Study(JECS))の結果を用いて国内の不育症/体外受精女性の分娩前後のうつ状態を調査した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
反復流産と体外受精妊娠は産後うつ症状に影響を及ぼしません。体外受精妊娠は妊娠中および産後うつ症状は減少し、反復流産後妊娠は妊娠中後期のうつ症状が増加していました。
≪論文紹介≫
Ayano Otani-Matsuura, et al. J Reprod Immunol. 2022 Aug:152:103659. doi: 10.1016/j.jri.2022.103659.
反復流産後妊娠と体外受精妊娠が妊娠中および産後のうつ症状に影響を及ぼすかどうかを大規模出生コホート研究にて比較検討しました。対象は2011年1月から2014年3月までにエコチル調査に参加された99,202名の妊婦としました。ケスラー心理的苦痛尺度(Kessler Psychological Distress Scale)は、妊娠初期、中後期、産後1年に実施しました。エジンバラ産後抑うつ尺度は、産後1ヶ月と6ヶ月に実施しました。
結果:
出産経験のない女性は、妊娠中および産後を通じて、うつ症状の有病率が高まりました。重度うつ症状の有病率は、子供がいない習慣流産で妊娠中後期に高まりました。体外受精妊娠は、出産経験のない女性において、すべての妊娠期間中および出産後1ヵ月と6ヵ月におけるうつ症状の有病リスク低下と関連していました。
≪私見≫
産後うつ病は母親の自殺や児童虐待の重要な危険因子となります。妊娠したら終わり、出産したら終わりではなく、しっかりしたサポート体制を確立していくことが重要なのかと思います。
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文責:川井清考(院長)
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