不育症は静脈血栓塞栓症のリスク因子(Thromb Haemost. 2019)

妊娠中および出産後の静脈血栓塞栓症のリスク因子として、静脈血栓塞栓症既往、血栓症素因、35歳以上、帝王切開、肥満が挙げられます。母体死亡リスクともなるため、リスクが高い群には抗凝固療法ふくめた予防が推奨されています。国内でどの程度、静脈血栓塞栓症が発生しており、リスク因子がなんなのか?と日本の環境省が実施するエコチル調査(全国規模の出生コホート研究であるJapan Environment and Children's Study(JECS))の結果を用いて調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

静脈血栓塞栓症は1万妊娠に対して7.5人となります。
静脈血栓塞栓症のリスク因子として、子宮内膜症、3回以上の反復流産、切迫流産、切迫早産、早産、帝王切開が認められました。

≪論文紹介≫

Mayumi Sugiura-Ogasawara, et al. Thromb Haemost. 2019 Apr;119(4):606-617. doi: 10.1055/s-0039-1677733.

妊娠中および分娩後の静脈血栓塞栓症リスク因子を検討しました。
国内環境省による全国規模の出生コホート研究「エコチル調査(JECS)」にて、2011年1月から2014年3月までの期間で登録をした103070名の妊娠を対象としました。妊婦は妊娠初期と中後期にアンケートに回答しました。妊婦の医療記録は、登録時、出産直後、出産1ヵ月後に医師または研究コーディネーターによって登録されました。
結果:
妊娠中および分娩後の静脈血栓塞栓症の頻度は、1万妊娠あたり7.5名(103,070名中77名)でした。各因子について複数の共変量を調整した結果、子宮内膜症(aOR 2.70、95%CI 1.21-6.00)と3回以上の反復流産(aOR 6.13、95%CI 2.48-15.16)が静脈血栓塞栓症の新規リスク因子であることが同定されました。
他のリスク因子として切迫流産(aOR 3.61、95%CI 2.16-6.02)、切迫早産(aOR 2.98、95%CI 1.83-4.85)、早産(aOR 2.64、95%CI 1.30-5.36)および帝王切開(aOR 2.19、95%CI 1.32-3.63)が同定されました。

≪私見≫

産婦人科ガイドラインでは、下記のように定められています。

CQ004-1 妊娠中の静脈血栓塞栓症の予防は?

  1. 妊娠初期に静脈血栓塞栓症の発症リスクを評価し,妊娠中の予防法について検討する.また,妊娠中に新たにリスク因子が生じた場合は予防法を再検討する. (C)
  2. 妊娠中の予防的抗凝固療法について
    (ア) 第1群および妊娠中に手術を行う第2群に対して,予防的抗凝固療法を行う.(B)
    (イ) 第2群および3つ以上のリスク因子を有する第3群に対して,予防的抗凝固療法を検討する.(B)
  3. リスクがある妊娠女性に対してはリスクを説明し,下肢挙上,膝の屈伸,足の背屈運動,弾性ストッキング着用などを勧める.(C)(一部改変)
  4. 妊娠中の抗凝固療法には未分画ヘパリンを用いる(VTE高リスクの腹部手術後には低分子量ヘパリン使用可能).(C)
  5. 妊娠前からワルファリンが投与されている場合は,例外を除いて速やかに未分画ヘパリンに切り換える.(A)
  6. 手術後以外に低分子量ヘパリンを用いる場合には説明して文書による同意を得る.(B)
  7. 陣痛発来以降は未分画ヘパリンの投与は中止とし,計画的な分娩・手術前には,未分画ヘパリンの中止は皮下注では12時間以上前まで,持続点滴静注では3~6時間前までに中止する.(B)
  8. ヘパリン(未分画/低分子量)投与時には以下を行う.
    (ア) PT,APTT,血小板数,肝機能などを適宜測定・評価する.(B)
    (イ) 血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia:HIT)発症に留意する.(B)
    (ウ) 硬膜外麻酔などの刺入操作/カテーテル抜去には適切な時間間隔を設ける.(B)

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文責:川井清考(院長)

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