精索静脈瘤手術で精巣の脱転と精巣導体の処理は必要か?

≪研究の紹介≫

Comparison between Microsurgical Varicocelectomy with and without Testicular Delivery for Treatment of Varicocele: An Updated Systematic Review and Meta-Analysis

精巣脱転を伴う顕微鏡下精索静脈瘤手術と伴わない精索静脈瘤手術の比較:最新の系統的レビューとメタアナリシス

Wang Y. et al., Andrologia, Volume 2023, Article ID 7348578, 12 pages

はじめに
今回は顕微鏡下精索静脈瘤手術の手技についての研究です。精索静脈瘤ではおもに内精静脈の逆流や鬱滞を改善する目的で、精索の中の静脈を結紮します。しかしながら、精巣導体という精巣の尾側(下方、あるいは足方)の方からの血管の異常も造精機能障害の原因となるという考えがあり、精巣を創外に脱転する方法があります。再発例の一部に精巣導帯からの血流が関係している場合があるようですが、筆者の施設ではここまで行っていません。この研究は、この手術方法の意義を検討した論文です。

背景と目的:
精索静脈瘤手術後の精巣導帯静脈の拡張が精索静脈瘤再発の原因となることが報告されています。精巣導帯静脈は精巣尾部から始まり、陰嚢背側の静脈に合流します。精巣導帯静脈は解剖学的に精巣の脱転(精巣を創外に露出すること、TD)後にのみ結紮可能です。顕微鏡下精索静脈瘤手術の際に、TDと精巣導体静脈の結紮を行うことで、精索静脈瘤の再発を減少させることができるかもしれませんが、この方法についてはまだ結論がでていません。そこで、この研究では系統的レビューとメタアナリシスを行い、TDを併用した顕微鏡下精索静脈瘤手術後の精索静脈瘤再発、合併症、および臨床転帰を評価しました。

対象と方法:
PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Science、China National Knowledge Infrastructureの各データベースで関連する研究を検索し、メタアナリシスを行いました。標準化平均差、相対リスク(RR)、およびそれらの95%信頼区間(CI)を用いて、結果を評価しました。このメタアナリシスには、10件の無作為化比較試験と7件のコホート研究を含む17件の論文が使用されました。1,024人のTD実施患者と1,230人のTD未実施の患者を含む、合計2,254人の症例が解析の対象となりました。

研究結果:
TDを伴う顕微鏡下精索静脈瘤摘出術は、TDを伴わない群と比較して、術後の陰嚢浮腫(RR=4.20、95%CI=2.60-6.81、p<0.001)、精巣水瘤(RR=6.58、95%CI=1.19-36.20、p=0.030)、および精巣および精巣上体炎(RR=6.33、95%CI=2.08-19.31、p=0.001)の発生率が高くなる可能性があることがわかりました。
同様の所見は、精索静脈瘤グレードIIとIII(触知可能な精索静脈瘤)のサブグループ解析でも認められました。
一方、精液検査所見、精索静脈瘤再発率、血清テストステロン値、自然妊娠率については、両群間に有意差は認められませんでした(p>0.05)。

結論:
精索静脈瘤摘出術中のTDは、術後合併症を引き起こす可能性があり、精液検査所見、精索静脈瘤の再発および自然妊娠には有益でない可能性があります。したがって、精索静脈瘤症例にとってTDが有益であるとはいえないのではないでしょうか。

≪筆者の意見≫

わたくしがこの手術を始める時から参考にしている手術書には、精巣導帯を処理する手術方法があることが記載されていましたが、手術書の著者はそこまでしていないとのことでした。そのため、私も実施していません。再発例の場合、通常の方法での再手術をまず検討しています。精巣導帯からの逆流も考慮されますが、血管造影での診断が必要と思われます。なお、静脈の造影をしている施設も一部あるようです。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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