イクラ由来のDHA-EPAで精液所見改善!?

≪研究の紹介≫

Effects of Intake of Food Containing Salmon Roe Oil-derived Docosahexaenoic Acid and Eicosapentaenoic Acid on Sperm
-A Randomized, Double-blind, Placebo-controlled, Parallel-group Study -
Takada et al., 応用薬理 Pharmacometrics 105 (3/4) 57-68 (2023)

イクラ油由来のドコサヘキサエン酸とエイコサペンタエン酸を含む食品の摂取が精子に及ぼす影響 -無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験 -無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較試験-

はじめに
最近の研究では、オメガ3脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)を摂取することにより、精液の抗酸化状態が改善し、精子DNAの断片化が減少することが報告されています。これまででもコエンザイムQ10とDHAやEPAが入った日本製のサプリメントで精液所見改善効果があったという報告があります(Yamsaki et al., 2022, PMID: 35386378)。今回はイクラ由来のDHAとEPAを投与すると精液所見が改善するかどうかを無作為化二重盲検で検討しています。今回も我が国からの報告です。

目的:
イクラ油由来のDHA150mgとEPA60mgを含む栄養補助食品を摂取することにより、精液所見に影響があるかどうかを明らかにすることがこの研究の目的です。

対象と方法:
2020年2月から2020年11月にかけて無作為化二重盲検プラセボ対照試験が行われました。35~65歳の健康な男性(110名)を1:1の割合で2群に無作為に割り付け、イクラ油またはプラセボを12週間投与されました。介入群(n=55)にはイクラ油1000mg(DHA150mg、EPA60mg含有)が投与され、対照群(n=55)にはプラセボ(ベニバナ油、DHAやEPA含まず)が投与されました。主要評価項目は精液検査所見の変化とし、副次的評価項目として健康関連の質やホルモン値(SF-36、Profile of Mood States-Second Edition-Adult Short、摂取後のアンケート、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、テストステロン)を評価しました。

結果:
全体では精液検査の各項目および副次評価項目のいずれの項目においても有意差は認められませんでした。主要評価項目(精液検査)の年齢別サブグループ解析では、35~44歳の精子濃度の変化は、プラセボ群と比較して介入群で有意な増加を認めました。一方、45~65歳の精子濃度には有意な変化は認められませんでした。35~44歳の12週間後の精子濃度は、介入群でプラセボ群と比較して有意に増加していました。

結論:
イクラ油由来のDHAおよびEPAサプリメントは、35~44歳の男性において精子濃度を増加させました。この増加が生殖機能と関連するかどうかは、さらなる臨床的検討が必要と考えられます。

35~44歳 精子濃度
投与前
精子濃度
投与12週後
P値
プラセボ投与群 (N=15) 6373.3 ± 743.1 X 104/mL 6813.3 ± 860.3 X 104/mL <0.05
DHA+EPA投与群 (N=18) 5605.6 ± 544.9 X 104/mL 9200.0 ± 852.8 X 104/mL
45~65歳 精子濃度
投与前
精子濃度
投与12週後
P値
プラセボ投与群 (N=15) 6913.3 ± 643.6 X 104/mL 6813.3 ± 860.3 X 104/mL 0.576
DHA+EPA投与群 (N=12) 6150.0 ± 804.7 X 104/mL 8566.7 ± 1291.4 X 104/mL

 

≪筆者の意見≫

全体として精液所見が良い方が多く、男性不妊外来を受診するような方とは患者背景が異なりますので解釈には注意が必要ですが、妊活をしているような40歳前後の男性がDHA+EPAサプリを飲むと精液所見がより良くなるという結果かと思います。高齢の群でも精子濃度は上昇傾向であるようにも見えます。QOLを調べても有意な変化はなく、血液データでも問題になるような変化もありませんでした。副作用は軽度のものは認められましたが、重篤なものはありませんでした。ですので小規模な研究結果ですが、製品化したら安心して利用できそうです。
サプリメントの信頼性が揺らぐような事件がありましたが、今回の研究は新薬の開発を実際に行なっている日本を代表する製薬会社の一つが中心になってサプリを開発して行なっています。商品化されたら試してもらいたいと思いますが、すでに既存のサプリでも魚の油が入っているものがありますので、そちらもよりすすめやすくなりました。男性不妊外来受診の方では脂質異常症の方も多く、DHA+EPAを含む製剤は中性脂肪低下など健康状態改善の効果も期待できるかもしれません。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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