体脂肪率はBMIを超える生殖医療成績マーカーになりうる?(J Assist Reprod Genet. 2020)

肥満は、II型糖尿病や心血管疾患などの代謝障害だけでなく、女性の生殖能力にも障害をもたらします。慢性炎症と酸化ストレスが肥満の共通の特徴となります。いくつかの研究で、炎症性サイトカインと活性酸素が排卵周期、ステロイド生成、腸内細菌叢などを変化させることが報告されています。
Alexandria P Snider, et al. Reproduction. 2019 Sep;158(3):R79-R90.
BMIだけで評価すると、筋肉量・脂肪量まで評価できません。BMIだけではなく体脂肪率の卵巣刺激・精液検査との相関を調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

肥満はAMHもFSHも低下させる傾向があります。体脂肪率・BMIミスマッチは体外受精成績に影響を与えないことがわかりました。

≪論文紹介≫

Julia Kim, et al. J Assist Reprod Genet. 2020 Nov;37(11):2733-2742. doi: 10.1007/s10815-020-01930-3.

体外受精を受けている2013組のカップルを対象とし、生体電気インピーダンス分析(BIA:bioelectric impedance analysis)およびBMIと生殖医療結果(卵巣予備能検査、調節卵巣刺激における卵巣反応、精液検査)を前向きに評価しました。採卵時にInBody770を用いて体脂肪率、BMIを評価しました。
結果:
体脂肪率またはBMIに基づいて肥満と分類された女性は、血清FSHが低くなりました。PCOSではない女性(1706名)に限定すると、体脂肪率またはBMIに基づく肥満は血清AMH値の低下とも関連していました。肥満は、PCOS有無に関わらず回収成熟卵子数に影響を与えませんでした。男性側の肥満は総運動精子数の減少と低下していました。
男女で体脂肪率とBMIのミスマッチグループを評価すると、女性はBMIによって過体重または肥満のリスクが過小評価され、男性は過大評価される傾向がありました。ただし、女性では、BMI<25かつ体脂肪率<31群と、BMI<25かつ体脂肪率≧31群で、すべての臨床転帰を比較しましたが、差は認められませんでした。男性でも、BMI≧25かつ体脂肪率<22群と、BMI≧25かつ体脂肪率≧22群で差は認めませんでした。

≪私見≫

肥満だけではなく、低体重も問題です。 低体重に伴う不妊女性は視床下部-下垂体-性腺軸の機能障害であることが多いとされています。神経性食欲不振症(anorexia nervosa:AN)だけではなく、スポーツにおける相対的エネルギー欠乏症(RED-S)でも同様のことが言えます。
Chrysoula Boutari, et al. Metabolism. 2020 Jun:107:154229.

肥満女性では卵胞内の顆粒膜細胞のアポトーシスがすすみ、AMHなどが低くでるとされています。通常、卵巣予備能がさがるとFSHが上がります。しかし、肥満患者ではAMH↓FSH↓となることがあるのでAMHが低値で排卵障害がある場合、FSHによる卵巣刺激を検討してもよいのかもしれません。この報告は医師の判断により卵巣刺激ゴナドトロピン量が変えていますから、卵巣反応不良が導き出せなかった可能性もあります。今後、注視して報告を見てきたいと思います。

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文責:川井清考(院長)

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