卵子の顕微授精時の成熟判定②

今回は卵子の顕微授精時の成熟判定について2回シリーズの第2回目になります。

1回目では、卵子本体の近くに小さな極体が寄り添っている場合、「見た目」は成熟していると判定されることをお話しました。それでは、「見かけ上」この極体が出ている場合、この卵子の「中身」も本当に成熟していると言えるのでしょうか?

今回は、「見た目」は成熟している卵子の「中身」の成熟判定についてお話します。

卵子の中には女性のDNAが存在しています。この女性DNA、通常の顕微鏡では見えませんが、偏光顕微鏡(物質の偏光や複屈折といった特性を、明暗や色の違いとして捉え、観察できるようにしてくれる顕微鏡)を使うと見えるようになります。極体が出ていて、尚且つ、この女性DNAが偏光顕微鏡により見える状態、これが卵子の「見た目」も「中身」も成熟していることを示しています。極体が出ているにも関わらず女性DNAが見えない状態は「見た目」は成熟しているものの、「中身」は未熟であると考えられます。

厳密に言うと、写真中、白く見えるのは紡錘糸です。これは細胞分裂期に観察できるチューブリンが重合した微小管で、染色体の動原体に結合しており、染色体を分裂時に両極に誘引します。「見えない=未熟」と書きましたが、紡錘糸が見えない原因は染色体が未熟、あるいは染色体の異常が考えられます。紡錘糸が「見えない」場合、暫く待つと成熟して「見える」ようになる卵子もあれば(染色体が未熟)、いつまで待っても紡錘糸が「見えない」卵子もあります(染色体異常)。

この女性DNAが「見える」「見えない」は顕微授精後の受精率、そして受精卵の成長に大きく影響します。我々は過去にこの女性DNAの「見える」「見えない」が顕微授精後の臨床成績に及ぼす影響を調べました。顕微授精を行った529個中、女性DNAが「見えた」卵子の割合は92.4%、「見えなかった」卵子の割合は7.6%でした。受精率は「見えた」卵子が92.0%、「見えなかった」卵子が70.0%と大きな差が見られました。妊娠する可能性の高い胚盤胞になった割合は「見えた」卵子が29.8%、「見えなかった」卵子が3.6%と大きな差が見られました。こちらの研究成果は2019年のアメリカ生殖医学会にてポスター発表しました。この結果が意味するところは、顕微授精時に女性DNAが「見える」「見えない」は受精率および受精卵の成長に大きく影響し、女性DNAが「見える」状態で顕微授精をすることが大切であるということです。卵子の女性DNAが「見える」「見えない」に影響する要因は様々です。今後、女性DNAが「見える」卵子の割合を増やして1個でも多くの妊娠する可能性の高い胚盤胞が得られる様、常に卵巣刺激~採卵~顕微授精の流れを見直していきたいと思います。

文責:平岡(培養室長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。