子宮卵管造影の造影剤比較による5年間の追跡結果(論文紹介)

子宮卵管造影(HSG)を受けた不妊女性1119例を対象に、使用した造影剤が油性造影剤(oil-based)か水溶性造影剤(water-soluble)かによる妊娠への影響の違いを多施設共同無作為化試験で検討したオランダのグループの報告がまだまだつづきます。6カ月以内の妊娠継続率、生児出生率ともに水溶性造影剤にくらべて油性造影剤群で高いことを2017年に報告していました(妊娠継続率 39.7% vs 29.1%、生児出生率 38.8% vs 28.1%)。
今回、同じ研究グループが同じ患者様を対象に5年間の妊娠追跡結果を報告しました。5年後、油性造影剤群では555人中444人(80.0%)、水溶性造影剤では559人中419人(75.0%)が妊娠していました(相対リスク1.07;95%信頼区間 1.00-1.14)。自然妊娠(人工授精や体外受精をおこなわない治療)の割合は油性造影剤群が41.1%(228例の妊娠)、水溶性造影剤が34.7%(194例の妊娠)でした(相対リスク 1.18;95%信頼区間 1.02-1.38)。妊娠までの期間は、油性造影剤群のほうが水溶性造影剤群に比べて有意に短かい結果になりました(10.0ヶ月 対13.7カ月;ハザード比、1.25;95%信頼区間 1.09-1.43)。2回目の妊娠には両群で差は認められませんでした。

2017年の6ヶ月以内の妊娠率の報告:
N Engl J Med. 2017 DOI: 10.1056/NEJMoa1612337.
今回の5年間の累積妊娠率の報告:
Fertil Steril. 2020 DOI 10.1016/j.fertnstert.2020.03.022.

≪私見≫

このオランダのグループの論文は本当に画期的な論文だと思っています。HSG造影後の妊娠率が6ヶ月まで高いというのは私たちが患者様によく説明するのですが、実は1980年から2000年にかけて実施された報告がメインで、それ以降の報告は数多くありませんでした。今回の論文は今までの根拠を踏襲したうえで、より長期的にもHSGの実施が妊娠率に寄与することを示した論文となっています。次に、すごいところはHSGを「検査」という域から「卵管フラッシングという治療」として新しい価値を付加したところです。HSG後は妊娠することが多いなーと経験的に感じていましたが、無作為化試験で有意差をしめし示告するなんて中々できません。卵管フラッシングがタイミング・人工授精治療中に治療の一環としておこなうことが一般的になるのかなと考えています。
誤解を与えないように説明すると、この報告は卵管に異常がない女性年齢39歳未満の患者様に卵管フラッシングをした後、妊娠率が向上するかどうかの報告なので卵管に異常があるかたの治療報告ではありません。あとは造影剤の副作用としての甲状腺機能に対する予後の観点をどう考えるかです。彼らの論文はまだ続きます。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。