rFSH:HMG製剤による卵巣刺激時のホルモン動態(Hum Reprod. 2023:2)

HMG/rFSHを用いたGnRHアンタゴニスト法でなぜ血清P4がrFSH群で増加するかという仮説を示した報告をご紹介いたしましたが(rFSH/HMG製剤を用いた卵巣刺激時のホルモン動態)、この報告 まだまだ仮説の段階で結論がでていません。
同じような報告が今後も出てきた時に、再度確認できるように要点だけ追記しまとめておきます。

Ernesto Bosch, et al. Hum Reprod. 2023 Nov 30:dead251. doi: 10.1093/humrep/dead251

P450sccの作用によりCholesterolからPregnenoloneが産生されると、P450c17は17β-ヒドロキシラーゼ活性と17,20リアーゼ活性を触媒します(Pandey and Miller, 2005; Smitz et al, 2007; Miller, 2008)。
Pregnenoloneは、17β-水酸化を受けて17-OH Pregnenoloneを生成するか、活性ステロイドであるProgesterone(Thomas et al, 1989;Luu-The et al, 1989;Lawrenz et al, 2016)。
3β-HSDはPregnenoloneをProgesteroneに変換し、P450c17はPregnenoloneの17-OH Pregnenoloneへの水酸化とProgesteroneの17-OH Progesteroneへの水酸化を触媒します。
FSHが3β-HSDの発現をアップレギュレートし酵素活性を増加させることにより、黄体化を伴わない顆粒膜細胞からのP4の合成と産生を積極的に促進することが観察されています(Oktem et al.)
3β-HSDはまた、DHEAをAndrostenodione(Δ4)に、AndrostenodiolをTestosterone(T)に変換します(Devroey et al, 2009;Boostanfar et al, 2015;Hillier et al, 1991)。
しかし、17-OH Progesteroneのごく一部がAndrostenodione(Δ4)に変換されるだけなのは、ヒト顆粒膜細胞には17,20-リアーゼ機能がないため、ヒトP450c17はこの反応を17-OH PregnenoloneからDHEAへの変換のわずか3%しか触媒しないからです(Smyth et al, 1993)。
Androstenodione(Δ4)は17β-HSDによってTestosterone(T)に、DHEAはAndrostenodiolに、EstronはEstradiol(E2)に変換されます(Magoffin et al, 1995;Moghrabi and Andersson, 1998)。

今回のHMG/rFSHを用いたGnRHアンタゴニスト法のホルモン動態の結果

  • 血清FSHおよびLHプロファイルには、刺激による差なし。
  • トリガー当日の血清P4(ng/ml)
    rFSH群: 0.74±0.52 > HMG群: 0.45±0.26(P = 0.001)。
  • トリガー当日の卵胞容積1mLあたりのP4の循環への寄与
    rFSH群: 0.021±0.027 > HMG群: 0.013±0.008 P = 0.044
  • 血清P4の差は、刺激6日目と8日目でも有意
  • トリガー当日の血清androstenodione(ng/mL)
    HMG群: 3.0±1.4 > FSH群: 2.4±1.1(p = 0.015)。
  • 血清androstenodioneの差は、刺激8日目にも有意
  • プレグネノロン、17-OH-P、E2、エストロン、T、DHEAについて差なし
     
  • 血清FSHとトリガー当日P4との関係
    rFSH群では正の相関/HMG群では相関なし
  • 血清LHとトリガー当日P4との関係
    rFSH群・HMG群ともに優位でないが負の相関
  • 血清HCGとトリガー当日P4との関係
    HMG群は優位でないで負の相関

卵胞液中の評価

  • HMG群>r-FSH群
    FSH、LH、E2、DHEA、androstenodioneおよびTレベル
  • HMG群・r-FSH群で差なし
    P4、エストロン、17-OH-P4、プレグネノロン

≪私見≫

この報告の味噌は卵胞液中のP4が一定なのに、血清P4に差がつくことです。
P4が卵胞液から血中へ移行していることがわかります。卵胞液の透過性がどのような機序かはわかりませんが上昇し、早い段階で血中に性ホルモンを循環させている可能性があります。
この論文を理解するうえで再度確認しておかなくてはいけないのは、性ステロイド生成経路は卵胞内の性腺細胞だけではなく、副腎皮質でも行われることです。同時に卵胞内のエストラジオール・プロゲステロンの作成はこの報告では下流膜細胞にだけ焦点をあて議論していますが、莢膜細胞にもふれていかないと議論が深まりません。
Two-cell, two-gonadotropin theoryが古典的に提唱されていて、卵胞内でのエストロゲン合成における顆粒膜細胞と莢膜細胞の役割、およびこれらの細胞がそれぞれFSHとLHに応答するとされています。
莢膜細胞は、コレステロールからアンドロステンジオンなどのアンドロゲンを合成します。合成されたアンドロゲンは隣接する顆粒膜細胞へ移行します。顆粒膜細胞は、アロマターゼという酵素を用いてアンドロゲンをエストラジオールに変換します。
まだまだ解明されていないことばかりですね。

文責:川井清考(院長)

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