卵巣予備能低下女性に対しての低刺激は有効?

国内では体外受精不妊女性の利便性やHMG/FSH注射のストレスや合併症軽減を含めて、長い歴史上、低刺激法が行われています。低刺激法は適切に使用することで患者様にとって快適な不妊治療を提供できる可能性を秘めています(Hum Reprod Update. 2009, doi: 10.1093/humupd/dmn056.)
卵巣予備能が低下している患者に対して卵巣刺激を行なっても回収卵子数の大幅な増加は見込めないわけですから、どのような刺激を選択するかは難しいテーマです。いくつか報告をご紹介します。

≪ポイント≫

低刺激はFSH投与量が減少するため、経済的負担・身体的負担が軽減し、適切な使用を行うことで妊娠率は通常刺激と同等に確保できる可能性があります。

≪論文紹介≫

●ロング法、LTZ法、アンタゴニスト法を比較した報告
Rong Yu, et al. J Int Med Res. 2018 Jun;46(6):2327-2337. doi: 10.1177/0300060518770346.

116名(42歳以下 AMH1.5ng/mL未満)が参加したRCTです。ロング法54周期、LTZ法52周期、アンタゴニスト法60周期の生殖医療成績を比較検討したところ、LTZ法(32.69%)はロング法(11.11%)およびアンタゴニスト法(16.67%)と比較して周期中止率が有意に高くなりました。アンタゴニスト法は、初期流産率(44.44%)はロング法(12.50%)より高くなりましたが、LTZ法(16.67%)と比べて差がありませんでした。臨床妊娠率および生児獲得率にはロング法、LTZ法、アンタゴニスト法で差がありませんでした。

●低刺激のメタアナリシス
T N Bechtejew, et al. Ultrasound Obstet Gynecol. 2017 Sep;50(3):315-323. doi: 10.1002/uog.17442.

22件報告を検討し生児獲得率、臨床妊娠率、流産率、周期中止率相対リスク(RR)、OHSSのPetoオッズ比、回収卵子数およびFSH消費量の平均差(MD)を評価しています。その中で卵巣反応不良と思われる女性に関しての比較を行なっています。このレビューでは累積妊娠率に関しては触れられていません。
① CC卵巣刺激と標準卵巣刺激の比較
生児獲得(RR、0.9(95%CI、0.6~1.2、中等度-質の証拠)または臨床妊娠(RR、1.0(95%CI、0.8~1.4)、中等度-質の証拠)について差は認めませんでしたが、FSH投与量はかなり減少しました。
② LTZ卵巣刺激と標準卵巣刺激の比較
回収卵子数に差は認めませんでしたが(MD、-0.4(95%CI、-0.9~0.1)FSH投与量はかなり減少しました。
① ②とも他の評価項目はエビデンスが低く比較することができませんでした。

他のレビューでは、LTZ卵巣刺激と標準卵巣刺激の比較(Song Y, et al. Gynecol Endocrinol 2014)では臨床妊娠率を低下させる可能性が示唆されており、CC卵巣刺激と標準卵巣刺激の比較(Song D, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 2016)では臨床妊娠率は同等としています。

●国内のレビュー
Keiji Kuroda, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2022 Mar;48(3):521-532. doi: 10.1111/jog.15150.

※低刺激のメリット
 OHSSを含む合併症のリスクが少ない。
  ゴナドトロピン注射の必要性と費用が減少する。
 ART治療を続けやすい
 新鮮胚移植後の妊娠確率が高い可能性
 ラボの負担軽減
 未使用胚数の減少

※低刺激のデメリット
  回収卵子と凍結保存胚数の減少
  累積出生率の低下
  反復周期の必要性の増加

文責:川井清考(院長)

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