男性パートナーに対するクロミフェンクエン酸塩は効果的です

≪研究の紹介≫

男性不妊症に対するクロミフェンクエン酸塩: 系統的レビューとメタアナリシス

Clomiphene citrate for male infertility: A systematic review and meta-analysis

Huijben M, et al. Andrology. 2023 Sep;11(6):987-996. doi: 10.1111/andr.13388. PMID: 36680549.

男性不妊症は我が国だけでなく世界的な問題であり、治療が困難なことも少なくないものです。クロミフェンクエン酸塩は選択的エストロゲン受容体モジュレーターで、ホルモン産生と精子形成を刺激することにより精液所見の改善させる作用のある薬剤です。我が国でも生殖医療の保険適用により2022年4月から正式に乏精子症に対して処方可能となりました。その有効性は以前から認識されていた薬剤で保険適用化する前から自費診療でも用いられていました。その一方で、クロミフェンクエン酸塩の男性不妊症治療としての有効性に関するエビデンスは不足している状況であることも事実です。

≪研究の要旨≫

この研究では、クロミフェンクエン酸塩の不妊男性に対する精液所見改善効果を評価するために、系統的レビューとメタアナリシスを行いました。
研究の方法は以下のようになっています。PubMed、EMBASE、Cochraneという各データベースを用いて、不妊男性に対するクロミフェンクエン酸塩による治療の有効性についての研究の検索をしました。介入研究と観察研究の両方を含めて解析が行われました。主要評価項目は精液検査所見の各パラメータ(濃度、運動率、形態)の改善でした。副次的評価項目は、内分泌学的評価、妊娠率、副作用です。治療前および治療中のデータが示されている研究をメタアナリシスの対象としました。

結果:
次のような結果になりました。合計1,799件の研究が同定され、18件の研究が質的分析(n = 731)に、15件の研究がメタアナリシス(n = 566)に利用されました。対象となった症例数は、研究ごとに11~140人の範囲でした。精子濃度は治療中の方が高く、治療前との差の平均は8.38×10^6 /mlでした(95%信頼区間:5.17-11.59; p < 0.00001)。精子運動率は治療中の方が高く、治療前との差の平均は8.14%(95%信頼区間:3.83-12.45;p <0.00001)でした。治療前と治療中の精子の形態に差を認めませんでした。総テストステロン値、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモンおよびエストラジオールは、クロミフェンクエン酸塩での治療中に有意に上昇しました。追跡調査中に重篤な副作用を認めませんでした。10の研究で妊娠率が報告されており、クロミフェンクエン酸塩による治療中の妊娠率の平均は17%でした(範囲:0%~40%)。

クロミフェンクエン酸塩の投与の結果、精子濃度と精子運動率が増加しており、この薬剤投与は不妊症男性の精液検査所見を改善する安全な治療法と考えられるというのがこの研究の結論です。

表.クロミフェン治療前と治療中のデータの比較

因子 治療前
平均値(標準偏差)
クロミフェン治療中
平均値(標準偏差)
差の平均 統計解析
精子濃度 14.11 × 106/mL (27.10) 21.56 × 106/mL (30.16). 8.38 × 106/mL 95% CI: 5.17–11.59; p <0.00001
精子運動率 30.79% (17.64) 36.98% (18.13) 8.14% 95% CI: 3.83–12.45; p <0.00001
精子正常形態率 37.79% (24.45) 41.23% (26.05) 2.59% 95% CI: 0.98–6.17; p =0.15
総テストステロン 13.809 nmol/L (6.84) 25.78 nmol/L (12.093) 2.05 nmol/L 95% CI: 1.65–2.44; p <0.00001
FSH 5.93 mIU/mL (3.85) 13.26 mIU/mL (9.3) 10.32 mIU/mL 95% CI: 5.59–15.05; p <0.0001
LH 6.17 mIU/mL (3.35) 14.13 mIU/mL (12.51) 10.06 mIU/mL 95% CI: 5.55–14.57; p <0.0001
E2 18.67 pg/mL (10.91) 45.31 pg/mL (28.40) 2.04 pg/mL 95% CI: 1.03–3.05; p <0.0001

≪筆者の意見≫

保険診療で男性パートナーの方にクロミフェンクエン酸塩が使えるようになってまだ間もないのですが、筆者も乏精子症の患者さんに積極的にお勧めしています。実際にその効果を実感していますし、重篤な有害事象も経験していません。この研究のように精子濃度とともに精子運動率も上昇することが期待できます。他に有効な治療薬がないため重宝しています。治療開始後ホルモン値に反応があるかどうかいつもチェックしていますが、中にはテストステロン値が基準値以上に跳ね上がってしまって調整が必要な方がいるので慎重に使用しています。児の状態について調査が入る予定とのことですが、いずれ、更なる安全性の評価の結果が我が国からも出されると思われます。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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