反復流産や原因不明の不妊症でなくても精子DNA断片化は調べたほうが良いようです

≪研究の紹介≫

原発性不妊男性における精子DNA断片化率に関連する臨床因子:実際の横断研究からの結果
Clinical parameters associated with altered sperm DNA fragmentation index among primary infertile men: Findings from a real-life cross-sectional study.

Pozzi E, et al. Andrology. 2023 Nov;11(8):1694-1701. doi: 10.1111/andr.13380. PMID: 36598012.

現在、欧州泌尿器科学会(European Association of Urology)のガイドラインなどでは、反復流産や原因不明の不妊症が、精子DNA断片化を検査する適応となっています。しかしながら十分なエビデンスがないためにルーチンの検査としては推奨されていません。
一方で、生殖医療において治療方針の決定のために有用と考えられるため、我々の施設ではできるだけ精子DNA断片化率の評価をするようにしています。プレコンセプションケア外来においても精子DNA断片化率の測定をオプションとして設定しており、多くの方が選択しています。

≪要旨≫

この研究の目的は以下のようになっています。精子DNA断片化(sperm DNA fragmentation、SDF)を有する原発性不妊男性を診断するために、新規でより優れたモデルを構築するとともにその診断能を解析し、現行の欧州泌尿器科学会ガイドラインの推奨との違いを検討することです。

この研究では、世界保健機関(WHO)の基準で評価した515人の原発性不妊男性のデータを分析しました。精液検査所見、精子DNA断片化(精子クロマチン構造アッセイ、SCSAによるSDF)、血清ホルモン値を全症例について検討しました。精子DNA断片化率(SDF index、DFI)は30%以上を異常としました。正常な症例と30%以上のDFIを有する症例を比較しました。新しい予測モデルは、初診時のDFI>30%を予測する因子を探索するもので、ロジスティック回帰分析を用いて作成されました。2つの予測モデル(European Association of Urology Guidelines vs. 新規)のDFI予測の診断精度を評価し、臨床的な有用性を検証しました。

結果:
結果は以下のようになっていました。515例中、268例(51.9%)がDFI>30%でした。DFI>30%の患者は、年齢が高く(中央値[四分位範囲]39[35-43]対37[34-41]歳)、平均の精巣体積が低く(15[12-20]対17.5[13.5-20]mL)、総運動精子数が低値でした(1.80[0.7-13.2]対11.82[4.2-44.5]×10^6、すべてp<0.001)。その他の臨床的な因子に差は認められませんでした。両群を比較すると、反復流産の既往と原因不明の不妊症の症例の割合が同程度でした。多変量ロジスティック回帰分析では、精巣体積<15mL、流産の既往歴、原因不明の不妊症であるかどうかで調整した後、年齢が38歳以上(オッズ比:2.43)、ベースラインの総運動精子数が20×10^6未満(オッズ比:3.72)が、DFI>30%と関連していました(すべてp<0.0001)。新たに同定されたモデル(原因不明不妊症+反復流産の既往歴+精巣体積<15mL+年齢38歳以上+総運動精子数<20×10^6で予測)は、欧州泌尿器科学会ガイドラインのモデル(原因不明の不妊症、反復流産の既往の有無で予測)に対して、ベースライン時のDFI>30%を同定する精度が高く、臨床的に有用性があると考えられました(曲線下面積:72.1対52.7)。

結論:
結論としては以下のようになります。欧州泌尿器科学会のガイドラインを適用しても、精子DNA断片化異常を有する原発性不妊男性を適切に同定することはできません。今回の研究では、精子DNA断片化率が異常値である不妊男性を臨床的な評価の初期の段階で同定するための、新しくてより優れた予測モデルを提唱することができたと言えます。

表. 精子DNA断片化を予測するEAUのモデルと新規モデルの比較

EAUガイドラインモデル % 本研究による新規モデル %
感度 13.4% 感度 63.7%
特異度 46.2% 特異度 77.3%
曲線下面積 52.7 曲線下面積 72.1

EAUガイドラインでのモデル: 反復流産の既往、原因不明不妊症で予測したモデル
この研究での新規モデル: 原因不明不妊症、反復流産の既往歴、精巣体積<15mL、年齢38歳以上、総運動精子数<20×10^6で予測したモデル
曲線下面積は1に近いほどよいモデルとされています

≪筆者の意見≫

この研究から、原因不明の不妊症や反復流産の既往があることにこだわらなくても精子DNA断片化率を評価する意義があるということが言えそうです。精巣体積が小さかったり、高齢であったり、総運動精子数が少ない場合は精子DNA断片化率が高いことが予想されるのでその場合はより精子DNA断片化測定の意義が出てくると考えられます。
この研究での患者集団は、半数で精子DNA断片化率が異常高値であり、精索静脈瘤が45%に認められていたり、総運動精子数の平均値が8.9x10^6、総運動精子数が20x10^6未満の症例が55.3%となっていて、男性不妊症としてかなり重症なかたが多い集団と考えられます。また、精子DNA断片化の評価は、sperm chromatin structure assay (SCSA)で行われていることや、今回の研究の精子DNA断片化率の閾値である30%は我が国での研究での閾値の24%*よりも高めに設定されています。このような背景があるのでそのまま我が国の症例に適応できるかどうか注意が必要かもしれません。

*Osaka A, et al. Evaluation of the sperm DNA fragmentation index in infertile Japanese men by in-house flow cytometric analysis. Asian J Androl. 2022 Jan-Feb;24(1):40-44. PMID: 34121749; PMCID.

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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