採卵後感染症をモニターできるか:フランスデータベース(Hum Reprod. 2023)
採卵後の重症感染症の発生率は0.01%~0.6%と推定されています(El-Shawarbyら、2004;Aragonaら、2011;Weinerman and Grifo、2012;Levi-Settiら、2018;Lemardeleyら、2021)。骨盤内感染理由として、膣から骨盤や卵巣への細菌の混入、骨盤内感染症既往女性の再感染、腸の損傷、重度子宮内膜症が挙げられます(El-Shawarbyら、2004;Villetteら、2016)。
医療の質を改善するために、フランスの国民健康データシステムで採卵後感染症をモニターできるかどうかの報告です。
≪ポイント≫
国民健康データシステムを用いて採卵後感染症の発生率をモニターできそうです。
発生率が高い施設にはヒアリングなどを行い、治療改善を図る取り組みも可能かもしれません。
≪論文紹介≫
G Lemardeley, et al. Hum Reprod. 2023. doi:10.1093/humrep/dead232
フランスの包括的全国入院データベースから不妊症、妊孕性温存、卵子提供の3つのサブグループに分類された2019年に採卵を行った52,098名65,498周期の女性を対象としました。採卵を1年3回以上行った女性は除外しています。採卵後翌日から31日以内の入院および抗生物質投与を解析しました。感染症発生に関して、種々の特徴(女性年齢、併存疾患、採卵適応、入院期間、抗生剤治療の種類など)と多変量解析を行いました。
結果:
採卵後の感染症割合は6.9%(4,522周期)であり、0.2%(112周期)が入院、6.7%(4,410周期)が外来管理でした。入院に至った感染症は婦人科感染症(40.9%)および尿路感染症(23.5%)でした。外来管理の感染症は87.9%が単一抗生物質処方となっていました。混合効果モデル解析では、30歳未満の女性、妊孕性温存女性、CMU-C(所得が一定基準以下に支給される保険)受給者、子宮内膜症女性で感染リスクが有意に高いことがわかりました。
≪私見≫
今回の症例では採卵当日の抗生剤投与のモニターはしていません。施設間に採卵後感染割合に差があったことから、感染症を増やさない取り組みがあるのかもしれません。
一般的には、採卵前にポビドンヨード使用と滅菌生理食塩水による洗浄が推奨されています(Tsai et al., 2005; HCSP, 2012)。抗生物質予防投与は、危険因子がある場合にのみ推奨されていますが(HCSP, 2012;Levi-Setti, et al. 2018)、日本国内では外来管理での採卵が多いため、慣習として一般的に行われていることが多い傾向があります。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。
当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。