母親の妊娠前BMIは、子供の精液検査、精巣容積、ホルモンレベルに影響する?(Hum Reprod. 2023)

SharpeとSkakkebaekら(1993)は、BarkerとOsmond(1986)が最初に提唱したDOHaD仮説を基に、胎児期に高いエストロゲンレベルに暴露されると、子どもの男性生殖器官に影響を及ぼす可能性を示唆しました。
母親の肥満な脂肪組織の増加と繋がり、結果としてエストラジオール産生が増加します。過体重の母親から生まれた若年男性328名を対象としたパイロット研究では精子濃度が低いことが報告されていますが、症例数が少ないことが問題視されていました(Ramlau-Hansen CH, et al. Hum Reprod 2007;22:2758–2762.)
デンマークの出生コホートを用いて、妊娠前の母親BMIが子どもの将来の男性生殖機能に影響を与える可能性を調査した報告をご紹介します。

≪ポイント≫

母親の妊娠前BMIは、子供のホルモンプロフィールと関連しており、妊娠前に過体重および肥満であった母親から生まれた子供では、エストラジオール、LH、FAI値が高く、SHBG値が低いことがわかりました。

≪論文紹介≫

Anne Gaml-Sørensen, et al. Hum Reprod. 2023 Nov 3:dead230. doi: 10.1093/humrep/dead230.

1998~2019年のデンマーク全国出生コホート(Danish National Birth Cohort:DNBC)内のFetal Programming of Semen Quality(FEPOS)コホートから、1,058名の若年男性を対象とした集団ベースの追跡研究を実施しました。DNBCに含まれる母親が1998~2000年に出産した1,058名の子ども(中央値19歳2ヵ月)がFEPOSに参加しました。精液検査と血液サンプルを提供し、精巣容積・身長・体重を測定しました。 母親の妊娠前BMIは、妊娠初期の自己申告から得ています。
結果:
母親の妊娠前BMIと精液検査結果や精巣容積には一貫した関連は認められませんでした。妊娠前BMIが高い母親の子どもは、エストラジオール値が高く、SHBG値が低く、いずれも体重依存的でした。 妊娠前肥満(30kg/m2以上)の母親の子どもは、妊娠前BMIが正常(18.5~24.9kg/m2)の母親の子どもよりもLH値が高く、FAIも高くなりました。媒介分析から、エストロゲン、LH、FAIの高値に対する母親の妊娠前BMIの影響は、子どもの脂肪量とBMIに加えて出生時体重が部分的に媒介することが示唆されましたが、SHBGは子ども自身の脂肪量とBMIが媒介しました。父親BMIの関連性はありませんでした。

≪私見≫

母親の妊娠前肥満が子どもの生殖ホルモンに及ぼすことは、間に子ども自身の肥満などが関わっている二次的な結果の可能性もあります。つまり、子どもの成長・発達を注意すれば回避できる可能性もあるのではないでしょうか。

文責:川井清考(院長)

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