妊娠中の失業は流産・死産リスク上昇と影響(Hum Reprod. 2023)

流産と心理社会ストレスは関係性が指摘されています。自然災害(Torche. 2011)、大気汚染(Kioumourtzoglou, et al. 2019)、景気後退(Bruckner, et al.2016)が環境ストレス素因として、激務と経済的負担などストレスフルなライフイベント(Neugebauer, et al. 1996; Whelan, et al. 2007; Hogue, et al.2013)が、個人素因として流産との関連が報告されています。
今回、ご紹介するのは妊娠中の女性自身・パートナーの失業・解雇が流産・死産と関連があるかどうかを調査した報告です。

≪ポイント≫

妊娠中に女性自身やパートナーが失業すると、流産・死産リスク上昇と関連しそうです。

≪論文紹介≫

Alessandro Di Nallo, Selin Köksal. Hum Reprod. 2023 Sep 27;dead183. doi: 10.1093/humrep/dead183.

2009年から2022年に英国に住む約40,000世帯を対象としたインタビュー調査を対象としました。8,142件の妊娠エピソードに対して 女性自身またはパートナーの解雇・失業が流産・死産と関係があるかどうか調査しました。
結果:
女性背景と流産既往で調整した上で、女性自身またはパートナーの解雇・失業が流産・死産リスク増加と関連しました(OR=1.99、95%CI:1.32~2.99)。社会経済的背景などで調整をしてもリスク増加は変わりませんでした(OR = 1.81、95%CI: 1.20~2.73)。

≪私見≫

この研究はlimitationとして、自己申告制であったこと、サンプル数の限られていること、妊娠中の失業と流産・死産の両方に関係する交絡因子の存在をあげています。
確かに、交絡因子は存在する可能性がありますが、失業・解雇はストレス、フラストレーション、健康を害する嗜好品への暴露(タバコや薬物の使用、不健康な食事など)など十分悪影響を与えそうな素因が複数あり、失業時でも心身ともに安定した状態で妊娠生活を過ごすことができる環境整備が重要なのかもしれません。

文責:川井清考(院長)

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