胚盤胞にvacuolesがあると臨床成績が低下する(Fertil Steril. 2023)

胚の形態は染色体異常と相関があることが誰も理解していますが、胚盤胞の細かい形態異常がどのように影響するかはわかってきません。Vacuolesの有無により胚盤胞の異数性・臨床転帰に影響があるかどうかを調査した報告をご紹介します。

≪ポイント≫

胚盤胞にvacuolesがあると、異数性率の増加、正常胚盤胞移植時でも生児獲得率の低下と関連しました。移植胚が複数あるときには、vacuolesがない胚盤胞から胚移植を検討されていくことが好ましそうです。

≪論文紹介≫

Yu-Jen Lee, et al.  Fertil Steril. 2023 Aug;120(2):298-304. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.04.023. 

vacuolesの有無が異数性割合、臨床転帰に関連するかどうかを単一生殖医療施設で調査したレトロスペクティブコホート研究です。
2018年8月から2020年7月に単一生殖医療センターで826名3,351個の胚盤胞に対して着床前検査を実施し、167症例に単一倍数体胚盤胞移植を実施しました。VacuolesはICMもしくはTEに存在する場合を陽性としました。
評価項目はvacuolesと異数性または出生率との関連をロジスティック回帰モデルにてORおよび95%CIを推定することとしました。

結果:
826名胚盤胞3,351個中、903個(26.9%)にvacuolesを認めました。vacuoles陽性群は、vacuoles陰性群に比べ、着床前診断の正常核型率は低くなりました(28.8% vs. 35.5%)。vacuoles陽性群は、質の悪い胚盤胞である割合が有意に高くなりました(30.6%対18.2%)。ロジスティック回帰分析の結果、正常核型胚盤胞はvacuolesがないこと、母親年齢、胚質が良いことと正の相関がありました(vacuoles陰性群:aOR 1.291、95%CI:1.089-1.530、年齢<38歳:aOR 1.989、95%CI:1.692-2.337、胚質が良い:aOR 1.703、95%CI:1.405-2.064)。正常核型胚盤胞移植の着床率および生児獲得率は、vacuoles陽性群が低くなりました(35.5% vs. 56.6%、29.0% vs. 52.2%)。生児獲得率はvacuolesがないことと正の相関がありました(aOR 2.792;95%CI:1.180-6.608)。

≪私見≫

vacuolesとは、液体で満たされた膜結合性の細胞質封入体で、ゴルジ装置や平滑小胞体膜に由来する小胞の融合だと考えられています。 (1)卵子採取時にすでに存在しているもの、(2)顕微授精などによって人工的に作られたもの、(3)胚発生停止に関連しているものの3パターンが胚盤胞に残るvacuoles発生パターンだと考えられています。

文責:川井清考(院長)

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