動画で見る顕微授精の流れ③その壱
今回は新しい試みとして動画で一つの技術の一連の流れを動画で紹介しています。
今回紹介したい技術は卵子の中に精子を一つ入れる受精を促す顕微授精です。
顕微授精の一連の流れは以下の通りです。
① 卵子を探して培養液で洗浄
② 卵子の回りを取り囲んでいる卵丘細胞を取り外して成熟判定
③ 精子の探索と不動化
④ 卵子の紡錘糸観察
⑤ 卵子への精子注入
⑥ 受精確認
今回は、
③ 精子の探索と不動化
をその壱「精子の探索」とその弐「精子の不動化」の2回に分けて動画で説明します。今回はその壱「精子の探索」になります。卵子の中に入れる精子を探す操作になります。卵子に良い受精卵になってもらうためには、良い精子と出会わせることが大事です。したがって、顕微授精では良い精子を見つけることが何よりも大事です。
それでは、良い精子とは何か?一言で答えるにはとても難しい質問です。髪の毛1本分にも満たない小さな精子の良し悪しの判断は、精子の形と動きで行います。具体的には精子の頭の形がよいもの、尚且つ、真っ直ぐに泳いでいる精子を良い精子と判断して顕微鏡で拡大して探します。
顕微授精で精子を見た時の頭の形と動きの良い精子が良い精子と判断して見つけます。大まかな指標として、以下に頭の形が良い良好精子(写真①)と頭の形が悪い不良精子(写真②-⑩)の写真を示します。
精子を見つける、見つけた精子を卵子の中に入れる操作はガラス製のシャーレの上で行います。シャーレの上にそれぞれ精子用と卵子用の培養液の滴を作ります。精子を探すのは左側の細長い精子用培養液になります。見つけた精子を卵子の中に入れるのは中央の細長い卵子用培養液になります。精子用培養液はポリビニルピロリドン(略称:PVP)と呼ばれる高分子化合物が含まれています。ここではPVPは培養液中の粘性を高めるために用いられます。通常の培養液内では精子は速く直進していることから、精子頭部の形をじっくりと観察することは困難です。そこで、粘性の高い培養液の中で精子を泳がせることで動きを遅くして精子頭部の形、精子の動き等をじっくりと観察します。
精子を探す動画を見て頂く前に、精子を精子用培養液の中に入れる様子をお見せします。
動画は全部で1分10秒です。始めに精子が入った滴を作ります。この滴の中全体を無数の精子が動き回っています。精子が見易いのは30秒付近です。
精子用培養液の下の方に精子の懸濁液を注入します。しばらくすると、精子は精子用培養液の上の方に泳ぎ上がるので、できるだけ精子用培養液の上の方から精子を探していきます。
こちらの動画は全部で45秒です。
始めに顕微授精用の針を精子用懸濁液の中に入れます(倍率40倍)。
10秒~精子を探し始めます(倍率600倍)。
15秒~精子の頭の形態が悪い精子(頭が通常より少し小さく、頭の中に空胞と呼ばれる穴のようなものが見える)が画面上、下から上に通過します。この精子の頭の形態が悪いので捕まえずにスルーします。
20秒~精子の頭の形態が良い精子が画面上、下から上に通過します。この精子を顕微授精用の針の中に精子の尻尾側から吸い込みます。
30秒~倍率を1200倍にして、顕微授精用の針の中を泳ぐ精子の動き、精子の頭の形をじっくりと観察します。
この操作を精子の頭の形が良く、動きの良い精子に出会うまでひたすら繰り返します。精子の頭の形が良い精子の割合が高ければ、数分で良い精子に巡り合いますが、精子の頭の形の良い精子の割合が低ければ、時には一個の精子の見つけるのに10分以上掛かります。
今回は「③ 精子の探索と不動化」その壱として「精子の探索」を紹介させて頂きました。次回はその弐として「精子の不動化」を紹介致します。
文責:平岡謙一郎(培養室長)
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