denude後の成熟遅延卵子活用は有効?(Hum Reprod. 2023)

臨床を行なっていると、顕微授精を実施しようとして未熟卵である経験は、少なからずあります。この卵子をどのように扱うかは議論が分かれるところです。受精率・発生率が悪いことなどから、体外培養をおこなわない施設が一般的かもしれません。では、denude後の成熟遅延卵子を活用して胚盤胞まで発生した場合の異数性率はどうなんでしょうか。こちらを調査した観察研究をご紹介いたします。

≪ポイント≫

採卵翌日に成熟した卵子に顕微授精することで移植可能胚が増やすことができそうです。効果的な患者層として、母体年齢が高く、成熟度が低く、受精率が低い場合が考えられ、ルーチン手技として行うかどうかは意見が分かれるところです。

≪論文紹介≫

I Elkhatib, et al. Hum Reprod. 2023 Aug 1;38(8):1473-1483. doi: 10.1093/humrep/dead129.

2019年1月から2021年6月に、390名469周期5,449個の回収卵子を対象としました。顕微授精(n = 2911)および媒精(n = 544)からの当日成熟卵子(MII-D0)3455個とdenude後20-28時間で成熟した遅延卵子(MII-D1)910個の胚発生できた場合のBMI、AMH、年齢などの患者背景、成熟率、受精率、胚盤胞利用率、異数性率を評価した観察研究です。
結果:
受精率および胚盤胞到達率は、成熟遅延卵子(MII-D1)と比較して当日成熟卵子(MII-D0)で高くなりましたが(それぞれ69.5% vs. 55.9%、P < 0.001;および59.5% vs. 18.5%、P < 0.001)、MII-D0とMII-D1の間で異数性率に差は認められませんでした(46.3% vs. 39.0%、P = 0.163)。MII-D1胚で着床前診断ができる胚の割合に基づいて3群(0%、1〜50%、>50%)に分割しました。成熟遅延卵子の着床前検査への寄与が50%以上であった患者は、母体年齢が高く(平均年齢37.7歳)、回収卵子10個未満、成熟率34%未満、受精率60%未満でした。成熟遅延卵子を顕微授精するごとに正常胚を得る確率が有意に増加しました[OR=1.83、CI:1.50-2.24、P<0.001]。MII-D1-GV群(OR=1.78、CI:1.42-2.22、P<0.001)では、MII-D1-MI群(OR=1.54、CI:1.25-1.89、P<0.001)よりも、正常胚率がわずかに高くなりました。少なくとも成熟遅延卵子8個を受精させれば、成熟遅延卵子群で50%以上の確率で倍数体胚を得ることができます。

≪私見≫

成熟遅延卵子を受精させ最初の生児出産に至った報告はNagyらに1996年にされています。採卵当日に受精に使用できないdenude後のMI/GVは、廃棄することが多いですが、体外培養して臨床に用いることによって恩恵を得る層も一群いそうですね。ただし、成熟遅延卵子を用いて胚移植まで到達するのは4%前後であり、すべての患者さまに対して、日常的に行うには非現実的なのかもしれません。

文責:川井清考(院長)

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