母親年齢が上がると正常核型胚を戻しても成績が変わる?(Fertil Steril. 2023)
母体年齢が上昇すると、胚の染色体異常の影響で、妊娠率が低下・流産率が増加すると考えられています。では、着床前検査を行い、正常核型胚を移植すると母親年齢に依存せず成績が変わらないのでしょうか。
≪ポイント≫
母体年齢上昇とともに、正常核型胚を移植しても生殖医療成績の低下と関連しています。
≪論文紹介≫
Amerigo Vitagliano, et al. Fertil Steril. 2023 Aug;120(2):251-265. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.02.036.
母親年齢により正常核型胚移植の生殖医療成績が影響を受けるかどうかを調査したreviewです。ScienceDirect、PubMed、Scopus、Embase、Cochrane library、Clinicaltrials.gov、EU Clinical Trials Register、WHO International Clinical Trials Registryなどのデータベースを2021年11月まで検索しました。35歳未満の女性と35歳以上の女性を比較し、正常核型胚移植の妊娠継続率または生児獲得率を主要評価項目としました。副次評価項目は着床率と流産率としました。
結果:
7件の研究が検証しました(11,335正常核型胚移植)。35歳未満の女性では35歳以上の女性よりも妊娠継続率/生児獲得率(OR 1.29;95%CI 1.07-1.54;I2= 40%、RD 0.06; 95%CI 0.02-0.09)、着床率(OR 1.22;95%CI 1.12-1.32;I2 = 0%、RD 0.04; 95% CI 0.02–0.06)。また、35歳未満の女性と35-37歳、38-40歳、41-42歳の女性を比較すると、妊娠継続率/生児獲得率が高くなりました。
SARTデータベースでは、35歳未満、35~37歳、38~40歳、41~42歳、42歳以上の女性の正常胚移植後の生児獲得率は54.8% (95% CI, 54.5%–55.1%)、53.6% (95% CI, 53.2%–54.0%),、51.8% (95% CI, 51.4%–52.2%)、49.7% (95% CI, 49.0%–50.4%)、46.2% (95% CI, 45.1%–47.3%)でした。
≪私見≫
ディスカッションのなかで、母親年齢により正常核型胚移植の生殖医療成績が影響を受ける仮説を3つあげています。1つめは子宮内膜の老化、2つめは子宮筋腫や子宮腺筋症、耐糖能異常などの婦人科疾患の増悪です。こちらは卵子提供でも母親年齢があがると妊娠率が低下することからも胚性因子以外の子宮内膜側の異常があることは間違いありません(R.S. Williams, et al. Fertil Steril. 2022)。
3つめは異数性以外の胚性因子の存在です。胚の遺伝子発現、代謝、エピジェネティックな変化が影響を及ぼしている可能性があるとしています。
文責:川井清考(院長)
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