子宮卵管造影後どういうカップルが妊娠しやすい?(論文紹介)

オランダの27病院で、子宮卵管造影を受ける女性(18〜39歳、1年以上不妊、1119名)を対象に、油性造影剤群(557名)と水溶性造影剤群(562名)をランダムに選び、その後の妊娠率を前向きに検討しました。排卵障害・卵管因子・男性因子・クラミジア感染既往・内膜症などの女性は除外しタイミング・人工授精をメインに評価しています。2017年にThe New England Journal of Medicineという格式高い雑誌に 妊娠率・妊娠継続率・出産率ともに油性造影剤を使用したほうが高いという報告が掲載されました。(臨床妊娠率: 油性造影剤 45.3%(251/554)vs.水溶性造影剤35.0%(194/554), 妊娠継続率 油性造影剤 39.7%(220/554)vs. 水溶性造影剤 29.1%(161/554))。その後コストベネフィットを考えた際には油性造影剤が割高になることが第二報で報告されました。(コストベネフィットはオランダでは油性造影剤での子宮卵管造影が水溶性造影剤での子宮卵管造影の10倍の費用がかかるため日本では参考にならないと思っています。)そして第三報では、どのような人が子宮卵管造影後妊娠しやすかったかが報告されました。この論文では女性年齢、BMI、原発性不妊か続発性不妊か、不妊期間、虫垂炎の手術歴、円錐切除の手術歴、精液量、濃度、運動率、総運動精子数、不妊予測スコア、喫煙などで比較検討しています。
BMI<30、精液量が3ml以上、現在の喫煙歴のない方が、妊娠率が高い傾向にありました。
第一報:N Engl J Med. 2017 DOIi: 10.1056/NEJMoa1612337.
第二報:Fertil Steril. 2018 DOI: 10.1016/j.fertnstert.2018.05.001.
第三報:Hum Reprod Open. 2019 DOI: 10.1093/hropen/hoz015.

≪私見≫

これまでの様々な論文では油性造影剤と水溶性造影剤での子宮卵管造影後の妊娠率に差がないという風潮がありました。しかし、今回のオランダのグループでは油性造影剤に軍配があがっています。油性造影剤が妊娠率をあげている理由はまだわかっていません。①子宮内膜と腹膜で、オイルが着床に有利な免疫的な作用を与える説 ②卵管の線毛運動を活性化する説 ③卵管内のゴミや粘液などを押し出す効果が強い説 などがありますが、実際はどうなのでしょうか。
それでも、副作用や胎児への影響を考慮し当院では水溶性造影剤の使用を継続しています。今後も新しい報告を追跡していき当院の方針にも活かしたいと思っています。

今回の論文をとりあげたのは、39歳以下のタイミング・人工授精をメインとした妊娠率の比較でBMIが低く、喫煙しない人が妊娠しやすいというのは想像がつきますが、精液所見では濃度・運動率ではなく精液量の多い少ないが妊娠率に影響を与えたというところが勉強になったのが理由です。私たちも論文にするための前向き研究や割付が必要なスタディーは組めませんが、一般不妊(タイミング・人工授精)のデータを少しずつでも患者さまに公表していけたらと思っています。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。