挙児希望のためホルモン療法を途中中断しても短期乳がん再発率は上昇しない(N Engl J Med. 2023)
ホルモン受容体陽性早期乳がん女性が再発予防のため5-10年のホルモン療法を実施し、妊娠できない期間があるのは妊娠希望する女性にとって辛い状況です。
ホルモン療法を途中中断して妊娠トライした場合の臨床試験(POSITIVE試験)の短期予後が報告されましたのでご紹介いたします。
≪ポイント≫
ホルモン受容体陽性早期乳がん女性において18-30ヶ月でホルモン療法を中断しても、中断しなかった女性と比較して、追跡3年までの乳がん再発率は上昇しませんでした。中長期予後はまだでていませんので、今後の報告を待ちましょう。
≪論文紹介≫
Ann H Partridge, et al. N Engl J Med. 2023 May 4;388(18):1645-1656. doi: 10.1056/NEJMoa2212856.
乳がん既往若年女性において、妊娠希望のため補助ホルモン療法を一時的に中断することを評価しました。42歳以下、I期、II期、III期の乳がん、18~30ヵ月の補助ホルモン療法後に一時中断し妊娠を希望する女性を対象としました。主要評価項目は、追跡期間中の乳癌イベント(浸潤性乳癌の局所再発、転移、対側浸潤性乳癌の発生)としました。。1,600観察人年46件の乳癌イベント発生を安全閾値と設定しました。
結果:
516名の対象患者の背景として、年齢中央値 37歳、乳癌診断から中断までの期間中央値 29ヵ月、病期(I期またはII期) 93.4%、化学療法併用でした。途中中断し妊娠治療を実施した497名のうち、368名(74.0%)が少なくとも1回妊娠し、317名(63.8%)が少なくとも1回生児出産し、365人の赤ちゃんが生まれました。1,638患者人年(追跡期間中央値、41ヵ月)、44名に乳癌イベントが発生しました。乳癌イベントの3年発生率は、治療中断群 8.9%(95%CI、6.3~11.6%)、コントロール群 9.2%(95%CI、7.6~10.8%)でした。
妊娠と出産転帰
ロジスティック回帰では、妊娠に影響した因子は女性年齢が若いことでした。35歳未満女性は85.7%妊娠し、35~39歳76.0%妊娠、40~42歳52.7%妊娠でせした。497名中215名(43.3%)が生殖補助医療(体外受精)を利用していました。累積初回妊娠率は、〜6ヵ月28.8%、〜12ヵ月53.6%、〜24ヵ月70.5%でした。
妊娠した368名中41名(11.1%)が、妊娠合併症を報告しました(多い順に妊娠高血圧腎症3.8%、妊娠糖尿病2.4%、胎盤異常1.6%)でした。
365人の胎児(単胎335人、双胎15人)の出生転機合併症は、低出生体重児(2500g未満)29人(7.9%)、先天異常8人(2.2%)でした。
少なくとも1回の出産を経験した317名中196名(61.8%)が母乳育児を実施していました。
≪私見≫
患者様に示せる報告がないまま、ホルモン陽性乳がん女性に対してホルモン療法を途中中断し、妊活トライすることが行われる機会が多かったのが実情でした。
がん・生殖医療の妊孕性温存治療を実施している乳がん患者様の意思決定をサポートできる報告ですね。
文責:川井清考(院長)
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