ノンメディカルな卵子凍結動画(日本産科婦人科学会)

日本産科婦人科学会では、「ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ」というページ・動画を提供しています。
https://www.jsog.or.jp/modules/committee/index.php?content_id=302 

とてもわかりやすく作られていますが、22分ある動画なので、一度ご覧いただいても見落としたり、どんな内容だったか忘れてしまったりするかもしれません。
そこで、内容を簡単に説明させていただくことにしました。
なお、この説明は日本産科婦人科学会の承諾をえて作成したものではないので、ご自身で動画をみるうえでの参考資料くらいに考えてください。

(動画0:20〜)

  • 卵子凍結には、①がんなどの治療により妊娠しにくくなる場合の卵子凍結、②ターナー症候群など、治療ではなく疾病そのものにより妊娠しにくくなる場合の卵子凍結、③女性の平等な雇用・キャリア形成を含めて社会参加を促進し、経済的・育児環境に安定した段階での家族計画を立てるため若い頃に行う卵子凍結があります。

(動画4:30〜)

  • 卵子凍結は、不妊治療で一般的に行われる体外受精での胚凍結と異なること、凍結卵子を使用する際には、体外受精・顕微授精治療が必要であることを理解することが大事です。

(動画5:35〜)

  • メリット
    1. 卵子の質も量も20代がピークで、その後低下するため、卵子凍結を実施することで「卵子」部分においては、時間を止めることが可能であること 
    2. 女性がキャリア形成やパートナー選び、または自己実現などの理由で妊娠を延期したい場合に、自身の生殖能力を保存することができること

(動画8:40〜)

  • デメリット
    1. 卵子凍結ではホルモン剤を注射や内服薬などで投与し、その後に卵子を回収するための採卵術という小手術を行います。副作用・合併症などがないわけではありません。
    2. 卵子凍結が必ずしも妊娠に結びつくわけではないということも理解しておく必要があります。
    3. 卵子凍結を行う費用、毎年発生する保管料が自費診療であり自己負担がそれなりにあること、凍結をおこなった卵子の利用頻度が低いことなどから費用対効果を考え実施の有無を検討する必要があります。

(動画10:20〜)

  • 治療成績のイメージ
    卵子融解後、精子との受精にのぞめる率は、86-96.8%で、受精率は71-79%、着床率は17-41%、1サイクル当たりの妊娠率は36-61%となり、結果的に一つの卵子凍結を行った場合に、赤ちゃん誕生までたどり着く確率は4.5-12%と報告されています。

(参考文献)
Tina Liang and Tarek Motan
Advances in Experimental Medicine and Biology 951, 155-160DOI 10.1007/978-3-319-45457-3_13 2016
Practice Committees of the ASRM
Fertil Steril. 2013 Jan;99(1):37-43.doi: 10.1016/j.fertnstert.2012.09.028. Practice Committees of the ASRM

年齢が高くなると卵子をいくら多く凍結しても出生率があまり高くならないことがわかっています。
表:凍結時年齢別の卵子凍結個数別にみた一人出産できる推測割合 その1

凍結時年齢 卵子凍結10個 卵子凍結20個 卵子凍結30個 卵子凍結40個
28歳 80% 94%
34歳 75% 91% 95%
37歳 53% 75% 87% 92%
40歳 30% 52% 65% 76%
42歳 21% 36% 49% 60%
44歳 7% 15% 21% 26%

(参考文献)
R H Goldman, et al.Hum Reprod. 2017 Apr 1;32(4):853-859.doi: 10.1093/humrep/dex008.
年齢・個数別に、少なくとも一人出産できる割合をSupplementary Table SIIより抽出

表:凍結時年齢別の卵子凍結個数別にみた一人出産できる推測割合 その2

凍結時年齢35歳以下N = 123 凍結時年齢 35歳より上N = 518
凍結卵子数 累積生児獲得率(95% CI) 凍結卵子数 累積生児獲得率(95% CI)
5個 15.8 (8.4 – 23.1) 5個 5.9 (3.6 – 8.3)
8個 32.0 (22.1 – 41.9) 8個 17.3 (13.3 – 21.3)
10個 42.8 (31.7 – 53.9) 10個 25.2 (20.2 – 30.1)
15個 69.8 (57.4 – 82.2) 15個 38.8 (32.0 – 45.6)
20個 77.6 (64.4 – 90.9) 20個 49.6 (40.7 – 58.4)
24個 94.4 (84.3 – 100) 24個

(参考文献)
A Cobo,et al.Hum Reprod. 2018 Dec 1;33(12):2222-2231.doi: 10.1093/humrep/dey321.
ノンメディカル卵子凍結と、がん・生殖の卵子凍結の臨床成績が変わらないという論文のノンメディカル卵子凍結の臨床成績Figure 1より抽出
35歳未満の平均年齢は32.6歳、35歳より上の平均年齢は38.7歳

(動画15:25〜)

  • 卵子凍結の方法

卵巣刺激の方法、採卵の仕方、OHSS(卵巣刺激症候群)などの合併症について説明されています。

(動画20:00〜)

  • 凍結卵子を用いて高齢女性が妊娠した場合の注意

高齢になってからの妊娠出産は若い頃に比べて妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病を含め様々なリスクがより大きくなります。卵子の時間を止められたとしても母体の時間は止まりませんので周産期合併症、分娩時の分娩停止や出血量の増大などのリスクも上昇します。卵子凍結を行って高齢での妊娠出産を計画することは年齢上昇に伴う様々なリスクが高くなることへの理解と準備も必要となります。

(動画20:15〜)

  • 最後に

出産はゴールではなく、そこから新しい命を育てていく育児が始まります。
いつ頃妊娠・出産したいかというご自身の将来のライフプランの検討とともに、卵子凍結が未来のあなたにとって必要かどうかについても立ち止まって検討することの大事さを説明しています。

文責:川井清考(院長)

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