がん治療後すぐの妊娠は、早産リスクを上昇させる(Cancer. 2018)

「化学療法治療後に妊娠した場合、周産期リスクは上昇しますか?」と患者様に聞かれることがあります。
化学療法治療後6~12ヵ月は妊娠を延期するよう勧められることが一般的です。流産や先天性異常のリスクが高くなる可能性があることが理由に挙げられています。また、妊娠継続できたとしても早産・子宮内胎児発育遅延なども報告されています。今回、化学療法からの期間にわけて、早産リスクを調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

化学療法後に妊娠した女性は、治療からの妊娠期間が短かった場合、早産率上昇との関連がありました。

≪論文紹介≫

Kathleen P Hartnett, et al. Cancer. 2018 Nov 15;124(22):4401-4407.  doi: 10.1002/cncr.31732.

米国3州のがん登録の診断および治療情報データベースから20~45歳の浸潤がん、乳管がん(in situ)と診断された後に妊娠した女性を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。がん既往がない女性と出産におけるリスクと比較しました

結果:
何らかのがんに対する化学療法開始後1年以内に妊娠した女性は、がん既往がない女性よりも早産リスクが高くなりました(化学療法単独:RR、1.9;95%CI、1.3-2.7;放射線療法併用化学療法:RR、2.4;95%CI、1.6-3.6)。放射線療法を併用しない化学療法開始後1年以上または放射線を併用する化学療法開始後2年以上経過した妊娠女性では上昇しませんでした。乳がん女性では、放射線療法併用の有無に関わらず化学療法終了後1年以上経過した後に妊娠した女性は、がん既往がない女性と比べて早産リスク上昇は認めませんでした。
子宮頸がんでは、早産リスクは高い状況が続きましたが、1年以降経過した場合に若干低下しました(診断後1年未満で妊娠した場合: RR、3.5;95%CI、2.2-5.4;診断後1年を超えて妊娠した場合:RR、2.4;95%CI、1.6-3.5)。

≪私見≫

化学療法が早産を一過性に増加させる機序として免疫状態のアンバランスが指摘されています。
乳がん患者の免疫抑制は、化学療法後数ヵ月または数年持続し、CD4+細胞数は化学療法12~14ヵ月後には化学療法後前の2分の1になっていると報告されています(Hakim FT, et al. Blood. 1997; 90: 3789- 3798. Verma R, et al. Breast Cancer Res. 2016; 18: 10.)。

文責:川井清考(院長)

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