流産経験がある女性にHbA1cのルーチン検査の意義はなさそう(F S Rep. 2022)

糖尿病のコントロール不良妊婦では、初期流産、死産、先天性胎児障害のリスク上昇があることが知られています。
それらのことから、プレコンセプションケアと介入ポイント(FS2022)でも、糖尿病女性においてもHbA1c 6.5未満にすることで先天性奇形・周産期合併症の軽減すること、妊娠希望の場合は適正BMI 18.5-24を心掛けることが記載されています。
では、HbA1cをプレコンセプション検査としてルーチンに行うことは意味があるのでしょうか。こちらを調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

妊娠前HbA1cスクリーニングは糖尿病の危険因子を有する患者にのみ行うことで十分そうです。

≪論文紹介≫

Jessica R Zolton, et al. F S Rep. 2022 Jan 20;3(1):39-46.  doi: 10.1016/j.xfre.2022.01.002. 

2~3ヵ月間のグルコースへの累積曝露のマーカーである妊娠前HbA1cを測定し、妊孕性との関連があるかどうかを調査した研究です。米国の4施設で行われたEffects of Aspirin in Gestation and Reproduction(EAGeR)試験の前向きコホートの二次解析として実施しました。自然妊娠を試みた1~2回の流産歴がある18~40歳の健康な女性1194人に対して妊娠まで、もしくは最大6周期観察し、妊娠までの期間、hCG陽性率、臨床的妊娠、流産、生児獲得を評価しました。
結果:
HbA1cはBMI、ウエスト/ヒップ比と強い相関傾向にありました。
HbA1cはTertile 1 3.8–4.9、Tertile 2 5–5.1、Tertile 3 5.2–7.5で比較検討しています。未調整モデル(HbA1cの単位増加あたりの出産可能性オッズ比(FOR) 0.74;95%CI 0.57、0.96)および年齢・人種・喫煙・治療群について調整したモデル(FOR 0.79;95%CI 0.60、1.04)において、妊娠前HbA1cの上昇は出産可能性の低下と関連していましたが、BMIを含めて調整すると結果は減弱しました(FOR 0.91;95%CI 0.68、1.21)。糖尿病と診断されていない女性における妊娠前HbA1c値は、生児獲得や流産の予測因子ではありませんでした。

≪私見≫

アメリカの主要学会では妊娠を希望する場合、下記の場合にHbA1c検査を推奨しています。

  • 反復流産を経験する女性においてHbA1c スクリーニングを推奨
    Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine
    Fertil Steril. 2012 Nov;98(5):1103-11.  doi: 10.1016/j.fertnstert.2012.06.048.
  • 危険因子(糖尿病の家族歴、高リスクの人種/民族、高血圧、PCOS、運動不足、高脂血症、心血管疾患既往)を一つ以上有する過体重または肥満の女性、妊娠糖尿病既往の女性では、1~3年ごとのスクリーニングを受けることが推奨
    American Diabetes Association
    Diabetes Care. 2018 Jan;41(Suppl 1):S13-S27.  doi: 10.2337/dc18-S002.

文責:川井清考(院長)

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