子宮内膜症女性への卵子凍結の生殖医療結果(Fertil Steril. 2020)

ESHRE(ヨーロッパ生殖医学会)の内膜症ガイドラインでも、内膜症患者へのFertility preservationは肯定的な記載となっています。
子宮内膜症で卵子凍結を行った場合の臨床成績をご紹介いたします。

≪ポイント≫

妊孕性温存は、子宮内膜症患者が生殖の可能性を高めるための有効な治療選択肢となります。若年女性では、回収卵子数、累積生児獲得率の観点からは手術前に卵巣刺激・卵子凍結を行うことを良さそうです。

≪論文紹介≫

Ana Cobo, et al. Fertil Steril. 2020 Apr;113(4):836-844. doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.11.017.

2007年1月から2018年7月に子宮内膜症に対して将来の妊娠のために卵子凍結を行った女性485名を対象におこなったレトロスペクティブ観察研究です。
評価項目は卵子生存率および累積生児獲得率としました。対象として42歳未満、AMH 0.5ng/mL以上、子宮内膜症性嚢胞 1cm以上の手術患者を対象とし、卵巣刺激はGnRHアンタゴニスト法でおこないました。
結果:
ガラス法凍結時の平均女性年齢は35.7±3.7歳でした。患者背景として、内膜症手術を受けた卵子凍結をした女性より、手術を受けずに卵子凍結をおこなった女性が若い傾向にありました(33.4±3.6歳 vs. 36.7±3.7歳)。卵子生存率は83.2%、累積生児獲得率は46.4%であった。1周期あたりのガラス化卵子数(6.2±5.8個)は、片側手術群(5.0±4.5個)または両側手術群(4.5±4.4個)と比較して非手術群(7.9±7.1個)で多く凍結できていましたが、手術群では差がありませんでした。累積生児獲得率に対して、年齢(aOR 0.904;95%CI、0.858-0.952)、卵子数(aOR 1.050;95%CI、1.025-1.091)、卵子生存率(aOR 1.011;95%CI、1.001-1.020)の影響が確認されましたが、手術の影響は確認されませんでした(aOR 1.142; 95% CI, 0.778-1.677)。
年齢と手術で層別化し、若い女性(35歳以下)のグループに焦点を当てて解析を行ったところ、回収卵子数と累積生児獲得率の両方に対して手術群で低い傾向にありました。

≪私見≫

この結果だけみると、子宮内膜症でリプロダクティブ卵子凍結を考えた際には、卵巣予備能が高い状態での卵子凍結がよさそうですね。 卵子凍結が妊孕性に与える影響は、女性年齢と凍結している卵子数に依存しますので、費用対効果も含めて、こちらに適したストラテジーを提案していくことが必要であると感じています。

文責:川井清考(院長)

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