子宮内膜症手術の際の卵巣予備能低下の懸念点について
≪ポイント1≫
ESHRE(ヨーロッパ生殖医学会)のガイドラインでは、子宮内膜症性嚢胞手術の手術を行う女性に対し、手術後の卵巣機能低下のリスクについて、説明を行うことを推奨しています。
Christian M Becker, et al. Hum Reprod Open. 2022 Feb 26;2022(2):hoac009. doi: 10.1093/hropen/hoac009.
卵巣のダメージを避けるための術式の方法は様々な議論がされていますが、一定の見解は得られていません。
≪ポイント2≫
術式に関わらず、手術の卵巣予備能へのダメージは、片側手術と比較して、両側内膜症性嚢胞手術で重篤だとされています。
Mircea O, et al. J. Minim. Invasive Gynecol. 2016, 23, 1138–1145.
Candiani M, et al. Hum. Reprod. 2018, 33, 2205–2211.
Chang H J, et al. Fertil. Steril. 2010, 94, 343–349.
術後の卵巣予備能(AMH)の低下が永続的につづくか、回復するかの結論はまだ、でていません。AMHが術後一過性の低下から3-6ヶ月で回復するという報告がある一方、術前値まで回復しないというのが大きな流れのようです。
≪ポイント3≫
メタアナリシスでは、両側内膜症性嚢胞手術は片側手術と比較して卵巣予備能へのダメージが強く、術後6ヶ月以降も回復せず、そのまま低下し続ける症例があることを報告しています。
Nankali A, et al. Health Qual. Life Outcomes 2020, 18, 314
両側内膜症性嚢胞手術および7cm以上の内膜症性嚢胞手術の場合に、術後12ヵ月まで低下し続ける永続的なダメージが残りやすいとしています。
Moreno-Sepulveda J, et al. JBRA Assist. Reprod. 2022, 17, 88–104
≪私見≫
色々と文献をみましたが、子宮内膜症は術前であっても、術後であっても、「子宮内膜症は生殖機能の低下を引き起こすと予想される病気」の一つであることは間違いなさそうですね。レビューとして下記文献は、子宮内膜症と手術の第一人者であるLudovico Muziiが書いていて、見やすくまとまっていると感じました。
Ludovico Muzii, et al. J Clin Med. 2023 Feb 26;12(5):1858. doi: 10.3390/jcm12051858.
文責:川井清考(院長)
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