排卵誘発法の注意点は?(体外受精を除く)(ガイドライン婦人科外来編2020)

みなさんが不妊治療を行なっていくうえで、よく分からないけれど薬を処方されているという経験がないでしょうか。ほとんどの薬は原因に対する対処なので処方する理由が明確なのですが、不妊症で取り扱う排卵誘発の薬と黄体補充の薬のほとんどが妊娠率をあげるためにという理由で処方されますので、原因があるから内服するというよりは、「妊娠しないから内服する」ことが多いと思います。アメリカ生殖医学会の専門家委員の推奨でも原因不明不妊に関して人工授精時は排卵誘発の投与は有効だとされていますhttps://medical.kameda.com/ivf/blog/post_76.html。今回取り上げるのは日本産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020に「排卵障害を有する不妊症に対する排卵誘発法の注意点は?(体外受精を除く)」に触れ、当院の対策をコメントしてみようと思います。

  1. 排卵障害の種類を明らかにし、治療法を選択する。(推奨度A)
  2. 単一卵胞を目標とする。(推奨度B)
  3. 卵胞発育をモニタリングする。(推奨度B)
  4. 16mm以上の卵胞が4個以上存在した場合、治療周期をキャンセルする。(推奨度B)
  5. 過排卵となった場合は卵巣過剰刺激・多胎妊娠・正所性異所性同時妊娠の発生を注意する。(推奨度B)

【ガイドラインに対しての当院の取り組み】

1.排卵障害の種類を明らかにし、治療法を選択する。(推奨度A)

≪私見≫
私たちも意識をして治療にあたっています。排卵障害があるとクロミッドが処方されると勘違いされている患者さまも多いようですが、排卵障害があるかたは既往歴を詳細に確認し内分泌検査をおこなったうえで必要な薬剤介入をおこなっていきます。

2.単一卵胞を目標とする。(推奨度B)

≪私見≫
これは大事なところです。排卵障害がない患者さまは何もしなくても毎月1つ排卵します。しかし排卵がない、もしくは排卵障害がある患者さまに薬剤投与をした場合、急に薬が効きすぎてしまい、1つ育てるつもりが複数育つこともあります。そうかといって薬の量を減らすと排卵障害に効果がなくなってしまいます。当院ではどの医師が担当した場合でも薬の使い方は標準化しております。ただし、通院されている患者さまは通院される期間が伸びれば伸びるほど患者さまの排卵障害の情報もたまっていきますので、その場その場で医師が最適な方法を選択することは当然ながら許容しています。薬の使い方に疑問を感じた場合、担当医師もしくは担当した看護師にご質問いただければ幸いです。

3.卵胞発育をモニタリングする。(推奨度B)

≪私見≫
クロミッドもしくはゴナールなどの薬剤投与をする場合は基本ルールとしております。新型コロナウィルスの感染拡大防止のため3密をさける状況下ではありますが、複数卵胞がそだっているかどうかは超音波をみないと判別することができません。ご理解ください。

4.16mm以上の卵胞が4個以上存在した場合、治療周期をキャンセルする。(推奨度B)

≪私見≫
当院では3個以上でキャンセルすることを強く勧めています。2020年5月現在ここ半年の患者さま数をみると毎月150-250名のタイミングもしくは人工授精の患者さまがいらっしゃいますが3個以上でキャンセルになるかたは月1−2名程度です。

5.過排卵となった場合は卵巣過剰刺激・多胎妊娠・正所性異所性同時妊娠の発生を注意する。(推奨度B)

≪私見≫
卵巣過剰刺激は、2013年に当法人に赴任以来、一般不妊で行ったことはありません。多胎妊娠はタイミング・人工授精では現在1.3%程度です。正所性異所性同時妊娠は私が不妊治療にかかわってからは、体外受精患者もあわせて2名しか経験がありません。ただし多胎妊娠は自然周期排卵(つまり薬をつかわない場合)でも0.4%、正所性異所性同時妊娠も0.003%程度おこることもわかっているので十分な注意が必要です。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。