高度乏精子症に対する精索静脈瘤手術の成績について
≪研究の紹介≫
The yield of microscopic varicocelectomy in men with severe oligospermia.
Addar AM, et al. Urol Ann. 2021 Jul-Sep;13(3):268-271. PMID: 34421263.
高度乏精子症の男性における顕微鏡下精索静脈瘤手術の成績とその限界
Q.精液検査で精子数がとても少ない場合、精索静脈瘤手術で改善されるのでしょうか?
A.ある程度の改善を見込めますが、無精子症に至る場合もあります。
精索静脈瘤の手術は、以下の条件を満たす場合に行うべきとされています(Practice Committee of the ASRM): 1) 触知可能な精索静脈瘤、2) 夫婦が既知の不妊症、3) 女性パートナーが正常な生殖能力を持つ、または不妊の原因が治療可能、4) 精液所見に異常がある、または精子機能検査で異常値、を満たす場合です。これは無精子症を除いて、とされています。
高度乏精子症やcryptozoospermia(精子が非常に少なくて、精液を遠心分離してようやく精子を認める症例)でも上記の条件を満たす場合は少なくありません。しかしながら、精索静脈瘤があったとしても他の原因による精子形成障害が存在している可能性もあり、手術後の経過でさらに悪化して無精子症になってしまうことも危惧されます。この研究では、実際に非常に精液所見が悪い症例に対して顕微鏡下精索静脈瘤手術を行った場合、その後の経過がどうなっていたかを検証しています。
≪研究の要旨≫
はじめに:
精索静脈瘤は、原発性不妊症の男性の35%~50%、続発性不妊症の男性の81%に認めるとされています。様々な研究により、精索静脈瘤は精巣の萎縮と精子形成の障害に関連していることが示されています。軽度から中等度の男性因子による不妊症における精索静脈瘤手術の効果はよく報告されています。しかし、重度の乏精子症における精索静脈瘤手術について検討した研究は限られています。
研究の方法:
2014年5月から2017年11月までに顕微鏡下精索静脈瘤手術術を受けた高度乏精子症(精子数500万/mL未満)の症例45名を対象としました。精索静脈瘤手術後6ヶ月目に採取した精液検査の結果を比較し、患者を改善例*(responders)と非改善例(nonresponders)に分けました。術前と術後の精子数、精子運動率、精液量を比較するためにカイ二乗を用いました。
結果:
手術の6ヵ月後の改善例は1症例のみで、術前と術後を比較して運動率が45%から74%へ、精子濃度が100万/mLから2810万/mLとなっていました。全体では、精索静脈瘤手術後の精子濃度は平均131万/mLから532万/mLに改善し、有意な改善がみられました。しかしながら、精子の運動率には有意な低下が認められ、術前の35.62%から術後には28.64%に低下していました。精液量は術前の2.56mLから術後の3.19mLに増加していましたが、統計的な有意差はありませんでした(P > 0.05)(図)。6ヶ月の経過観察後に無精子症が判明したのは4症例(8.9%)でした。この無精子症になった4症例の術前の精子濃度は5万個/mL未満で、そのうちの2症例は精索静脈瘤手術前にcryptozoospermiaでした。これら無精子症となった4症例のうち2症例は、6ヶ月以上の長期のフォローアップを行った結果、射出精液中に精子を認めました。
結論:
重度の乏精子症患者に対する顕微鏡下精索静脈瘤手術による精液所見の改善効果は、軽度から中等度の男性因子による不妊症での報告よりも低い結果でした。
*改善例(responders)は以下のように定義されました: (1)精索静脈瘤手術後に精子運動率が改善し、(2)精子濃度が<100万/mLから500万/mL、または100~500万/mLから>1000万/mLに上昇した場合。
≪筆者の意見≫
精索静脈瘤を有していて、治療前の精液濃度が5万個/mL未満やcryptozoospermiaの場合は、術後に精液所見がさらに悪化して無精子症になってしまう症例もあったということで、貴重な検討結果です。このような症例でも手術は推奨されるわけですが、術後に精液所見悪化することも考慮して、可能であれば術前に精子凍結保存をしておくと心配が減ると思われます。術後に精液所見が悪化して無精子症になってしまう原因としては、手術の侵襲や合併症、精索静脈瘤以外の原因があってその影響が持続していることなどが考えられますが、多くの場合はよくわからないのが実情です。
当院でも同様の症例を経験しています。精索静脈瘤手術をするのか、少ない精子をつかってまず顕微授精をしてみるのか、精子凍結はどうするのかといったことについて、患者さんとよく相談していく必要があります。手術してもしなくても精液所見がさらに悪化して無精子症になる場合も想定されますので、その場合は精巣内精子採取術が必要になる可能性もあることも念頭におく必要があります。
文責:小宮顕(泌尿器科部長)
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