男性のプレコンセプションケア①~男性の健康と周産期予後~(論文紹介)

Q.父親の健康状態が、生まれてくる子供や母体の健康に影響するのでしょうか?
A.父親が不健康だと、出生児や母体に悪影響が出やすくなるようです。

≪今回ご紹介する論文≫

Association of preconception paternal health on perinatal outcomes: analysis of U.S. claims data.
Kasman AM, Zhang CA, Li S, Stevenson DK, Shaw GM, Eisenberg ML.
Fertil Steril. 2020 May;113(5):947-954. PMID: 32147174.

妊娠前の父親の健康と周産期予後との関連性:米国の診療報酬の請求データの分析

妊娠する前の父親の健康状態が悪いと男性の生殖機能の低下をきたしやすくなり、精液所見が悪化するとされ、一方で精液所見がわるいと寿命が短くなることも指摘されています。さらに、父親の健康状態が、生まれてくる子供の健康状態や母体にも影響することが最近わかってきています。この研究は、米国の診療報酬の請求の際に得られた膨大なデータを解析していて、重要な結果を導き出しています。

≪研究の要旨≫

この研究の目的は、父親の健康状態が母親の周産期および新生児期の転帰と関連するかどうかを評価することです。研究のデザインは後ろ向きのコホート研究です。
対象は、2009~2016年の米国内の出生児で、父親と母親のペアとその生まれた子どもの分析結果を用いました。父親の健康状態(例:メタボリックシンドローム診断、個々の慢性疾患診断)を検討材料としました。
評価項目は以下のようなものとしました:一次評価項目は早産(=37週以前の生児)、二次評価項目は低出生体重、新生児集中治療室(NICU)での治療、妊娠糖尿病、妊娠高血圧腎症、子癇、母親の入院期間としました。
結果は以下のようになっていました。IBM Marketscan Researchデータベースは、雇用保険を通じた民間保険に加入している入院および外来患者に関する支払い済みの医療請求データです。785,809人の単胎生産を評価したところ、6.6%が早産となっていました。父親の併存疾患の存在は、早産、低出生体重(LBW)、NICU入室のリスク上昇と関連していました。母親の因子を調整した後、メタボリックシンドロームのほとんどまたはすべての要素を持つ父親は、早産のリスクが19%高く(95%CI 1.11-1.28)、LBWのリスクが23%高く(95%CI 1.01-1.51)、NICUでの治療のリスクが28%高い(95%CI 1.08-1.52)結果でした。母体の病的な状態(例:妊娠糖尿病や妊娠高血圧腎症)も、妊娠前の父性の健康と相関がありました。
結論としてはつぎのようになります:妊娠前の父親の合併症が増加するにつれて、乳児および母親に悪影響がでる可能性があります。父親の影響はまだ小さいのですが、健康な妊娠には両親の健康が重要であるとともに、さらなる研究が必要です。

表.父親の健康状態が周産期予後に及ぼす影響の予測(多変量ロジスティック回帰モデル)

出生児N=785,809 早産のリスク 低出生体重児のリスク NICU入室のリスク
MetS (#1から#4)
1つ~4つ
1.07~1.14 1.08~1.21 1.07~1.26
1.高血圧 1.11 1.09 1.12
2.糖尿病 1.06 1.09 有意差なし
3.肥満 1.13 1.11 1.14
4.脂質異常症 1.05 1.06 有意差なし
5.悪性腫瘍 1.17 1.20 有意差なし
6.うつ 1.19 1.18 1.21
7.COPD 1.08 1.06 有意差なし
慢性疾患(#1から#7)
1つ~4つ以上
1.08~1.19 1.09~1.18 1.06~1.27
Charlson Comorbidity Index 1~3以上 1.09~1.15 1.11~1.31 1.08~1.23

MetS = metabolic syndrome

≪筆者の意見≫

健康な赤ちゃんを授かるためには、母親の健康も重要ですが、父親の健康もある程度関係あるという研究結果です。男性の健康状態がわるいと、精子を通じてこどもや母親の周産期予後に影響するという結果で、はっきりとした機序は分かりません。ただし、精子のDNAだけではなく、精子にはsmall RNAも含まれていることや、DNAのメチル化を通じて遺伝子発現に変化が起きることがわかってきています。男性パートナーの不健康なせいで、自分のこどもが小さく生まれてきたり(未熟児)、集中治療室に入ることになったり、女性パートナーが妊娠高血圧になって命の危険に晒されたり、と大変なことがおきることがあることを認識していただければと思います。
女性パートナーに対する影響については、もう少し詳しく次の記事で紹介いたします。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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