乳がん治療後妊娠の周産期予後と胎児への影響(メタアナリシス2021)

乳癌治療後の妊娠は、周産期予後や胎児に影響を及ぼす可能性があります。
乳がん治療後に妊娠した場合の注意点などを聞かれることがありますので、2021年の海外のシステマティックレビューをご紹介いたします。

≪ポイント≫

周産期結果
 妊娠後の生産率:有意差なし OR (95% CI) 1.21 (0.48 to 3.03)
 自然流産率  :有意差なし OR (95% CI)  1.04 (0.86 to 1.26)
 堕胎率    : 有意差なし OR (95% CI) 1.40 (0.71 to 2.76)
 周産期合併症 :Pre-eclampsia 有意差なし OR (95% CI) 1.03 (0.27 to 3.98)
分娩時結果
 帝王切開率  :上昇 OR (95% CI) 1.14 (1.04 to 1.25)
 分娩後大量出血:有意差なし OR (95% CI) 0.88 (0.57 to 1.37)
出生児予後
 低出生体重児率 :上昇 OR (95% CI) 1.50 (1.31 to 1.73)
 早産率     :上昇 OR (95% CI) 1.45 (1.11 to 1.88)
 SGA児率    :上昇 OR (95% CI) 1.16 (1.01 to 1.33)
 児の先天性異常率:有意差なし OR (95% CI) 1.21 (0.48 to 3.03)

Matteo Lambertini, et al. Meta-Analysis J Clin Oncol. 2021 Oct 10;39(29):3293-3305. doi: 10.1200/JCO.21.00535.

乳がん治療後の妊娠患者を含む報告を系統的な文献レビューを実施し、乳がん治療後の妊娠の可能性、その周産期予後と胎児への影響を評価しました。ランダム効果モデルを用いて、プールされた相対リスク、オッズ比、ハザード比、95%CIを算出しました。
結果
6,462件の報告のうち、一般健康集団の女性8,093,401人と乳がん診断後の女性112,840(妊娠7,505人)を含む39件の報告を抽出しました。乳がん治療後女性は、一般健康集団の女性と比較して、その後の妊娠の可能性が有意に低くなりました(相対リスク 0.40;95% CI 0.32~0.49)。帝王切開率(OR 1.14;95% CI 1.04~1.25)、低出生体重児率(OR 1.50;95% CI 1.31~1.73)、早産率(OR 1.45;95%CI 1.11~1.88)およびSGA児率 (OR 1.16; 95% CI 1.01〜1.33)は一般健康集団の女性と比較して、乳がん治療後女性(特に化学療法実施している場合)では有意に高くなりました。児の先天性異常率やその他の周産期予後のリスク増加は認めませんでした。
妊娠しなかった乳がん治療後女性と比較して、妊娠した女性は無病生存率(HR 0.66;95% CI 0.49~0.89)および全生存率(HR 0.56;95% CI 0.45~0.68)において良好な結果となりました。同様の結果は交絡因子で調整しても、患者・腫瘍の分類・治療特性・妊娠結果・妊娠のタイミングに関係なく観察されました。

≪私見≫

国内での診療の手引きはこちらになります。今回ご紹介した報告は診療の手引き後の報告ですのでご参考にしていただければ幸いです。

乳癌患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン2021年版 日本がん・生殖医療学会編
https://j-sfp.org/guideline_2021/
CQ 8 標準治療を終了した乳癌患者が自然妊娠を希望した場合,推奨されるか?
https://j-sfp.org/guideline_2021/chap_03_cq8

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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