妊娠中イソフラボン過剰摂取は控えましょう(論文紹介)

大豆および大豆製品に豊富に含まれるイソフラボンは、天然に存在するエストロゲン化合物の一群です。ヒトは、食事を通じて広くイソフラボンを摂取していますが、妊娠中は胎盤を介して母体から胎児に移行し、イソフラボンのする可能性があり、イソフラボンのゲニステイン(GEN)、ダイゼイン(DAD)は臍帯血中濃度が母体血中濃度より高くなることが報告されています。イソフラボン摂取は更年期女性にとっては有効性を示す報告が多いですが、妊娠中女性に対する影響はわかっていません。妊婦のイソフラボン摂取量が多いと、妊娠糖尿病、アレルギー性鼻炎、妊娠中のうつ症状の発生率が低下するという報告がある反面、内因性ホルモンのホメオスタシスを狂わせることにより胎児の発生に影響を与えることが懸念されています。肛門性器間距離(AGD: anogenital distance)はアンドロゲン曝露の敏感な尺度とされています。疫学的研究により、ビスフェノールA(BPA)、ポリフルオロアルキル物質、フタル酸エステルなどの合成内分泌撹乱化学物質(EDC)への妊娠中の母親の曝露が、子孫のAGDと関連することが示されています。
妊婦のイソフラボン摂取状況と出生時、生後6ヶ月および12ヶ月の乳児の肛門性器間距離(AGD)との関連を検討した報告をご紹介します。

≪ポイント≫

妊娠中の母親の尿中イソフラボン濃度が高いほど、男女ともに新生児・乳児の肛門性器間距離が長いことと関連し、イクオール(EQU)とダイゼイン(DAD)の関連性が示唆されました。過去に関連性を否定した報告もありますので結論は定まっていません。現段階では、妊娠中に積極的にイソフラボンをサプリメントなどで摂取することのメリットはないような印象をうけます。

≪論文紹介≫

Yao Chen, et al.  Hum Reprod. 2022 Nov 4;deac234.  doi: 10.1093/humrep/deac234.

2012年4月から12月に上海で妊娠12-16週の妊婦を対象とする前向きコホート研究です。出産時に1,225人の生児がコホートに残され、そのうち480組の母子が母親の尿中イソフラボン濃度と少なくとも1回の肛門性器間距離(AGD)を測定しました。男児ではAP(肛門中心から陰茎組織が恥骨と接する陰茎前底部まで)、AS(肛門中心から皮膚が隆起から滑らかに変化する陰嚢底まで)、女児ではAC(肛門中心からクリトリスまで)、AF(肛門中心から後方の陰唇小帯まで)を測定しました。
結果:
母親の教育、既往分娩、妊娠前BMI、妊娠初期の受動喫煙、出産時年齢、妊娠週数、乳児の体格を調整すると、男女の乳児において、母親のイソフラボン濃度が高いほど長い肛門性器間距離(AGD)と関連しました。男児では、EQUは出生時、6ヶ月、12ヶ月のASの長さと関連し、DADは出生時のAPの長さと関連しました。女児では、EQUとDADは出生時のACおよびAFの長さと関連しました。妊娠中の体重増加および最初の6カ月間の乳児の摂食パターンを調整し、母親BMIを連続変数として調整すると、より顕著な関連が観察されました。イソフラボン濃度が上位75%と、下位25%と比較して、男児では6ヶ月時のASが4.96 mm 、女児では出生時のACが1.07 mm増加しました。

≪私見≫

現在までに、妊娠中の母親のイソフラボン曝露と新生児男児の肛門性器間距離との間に関連がなかったという日本からの報告がありますが、サンプルサイズが小さいこと(111症例)、サンプル測定時期が幅広いこと(妊娠9週から40週)、男児のみの測定であり、フタル酸エステル類との関連を調べる一環でイソフラボンとの関連を調べたものです(Suzuki Y, et al. Int J Androl 2012;35:236–244.)。
現段階では、摂取を控えるというステージではないと思っていますが、サプリメントなどで過剰摂取のメリットはないような印象を受けます。

文責:川井清考(院長)

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