クラミジアIgG抗体陽性は自己妊活に影響する(論文紹介)
クラミジア・トラコマティス感染は卵管障害を引き起こし、卵管性不妊原因となることは周知のことです。では、HSG(子宮卵管造影)や腹腔鏡検査で目に見える卵管病変が認められなかった女性においても自己妊活の妊娠率に影響するのでしょうか。C. trachomatis抗体の妊娠率へ影響を認めないとする報告(Idahlら, 2004;Perquinら, 2007;El Hakimら, 2009)、高力価だと妊娠に影響をあたえるとした報告(Keltzら, 2006)がありますが、前向き研究での報告を今回ご紹介いたします。
≪ポイント≫
クラミジアIgG抗体陽性女性では、HSGまたは腹腔鏡検査で卵管疎通性が確認できていても、9ヶ月までの自己妊活での妊娠率は抗体陰性女性に比べて33%下がることがわかりました。
≪論文紹介≫
S F P J Coppus, et al. Hum Reprod. 2011 Nov;26(11):3061-7. doi: 10.1093/humrep/der307.
2002年1月から2004年2月にかけて、オランダの38病院の不妊治療クリニックに来院した連続したカップルの前向きコホート研究です。
HSG(子宮卵管造影)または腹腔鏡検査で両側の卵管疎通性が確認された32-34歳平均の女性を対象に行われました。総運動精子数1000万以上あり、排卵障害がないなど他の不妊原因がある女性、体外受精をおこなっている女性は除外されています。HSG(子宮卵管造影)または腹腔鏡検査で卵管疎通性が確認された排卵期の女性について調査した。C. trachomatis免疫グロブリンG(IgG)抗体について、微小免疫蛍光法(MIF)またはELISAで検査しました。女性は自己妊活を行なっていただき12ヵ月間追跡しました。打ち切り期日は最終診察日もしくは不妊治療開始日としました。C. trachomatis抗体陽性と妊娠継続率との関連は、Cox回帰分析で評価しています。
結果:
1,882人(クラミジア抗体陽性:348人、陰性 1,444人)のうち、338人(18%)が1年以内に自己妊活にて妊娠しました[推定累積妊娠率31%;95%CI:27-35%]。追跡期間9カ月以降は打ち切り女性が多かったため、回帰分析で最初の9カ月間に限定しました。C. trachomatis IgG陽性は、妊娠継続率が33%低いことがわかりました[調整済み出産率比 0.66(95% CI 0.49-0.89)]。
Cox回帰分析では自己妊活に影響を与える因子としてクラミジアIgG抗体陽性、女性年齢、不妊期間、妊娠既往が影響することがわかりました。
≪私見≫
クラミジアIgG抗体陽性の自己妊活での累積妊娠率の低下の要因として、IgA 陰性やPCR陰性でも子宮附属器に常在していて、慢性炎症や免疫異常を引き起こしている可能性、卵管疎通性が通っていても卵管絨毛などに微小障害が起こっていて卵管機能が正常でない可能性が考えられています。
クラミジア感染既往は原因不明不妊やこれから妊活を始めるカップルにとって知っておいてもいい項目かもしれませんね。
文責:川井清考(院長)
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