運動が男性の生殖機能に及ぼす影響について(論文紹介)

男性不妊の原因は様々です。
病的なものがなくても男性の生殖機能(妊娠させる能力、妊孕能とも言います)が低下していることはとても多く、原因が不明なので経験的な治療が行われることはとても多い状況です。生殖機能については、精液所見でまず評価することが多くなっています。男性不妊外来を担当していると、運動はどうですかと聴かれることが多いです。この論文は運動が男性の生殖機能に及ぼす影響について検討した総説です。精子形成に必要な性ホルモンや精液所見と運動の関連についての情報を提供してくれています。

≪今回ご紹介する論文≫

Influence of physical activity on male fertility
Minas A et al., Andrologia. 2022;54:e14433.

≪論文の要旨≫

不妊症は世界的な問題であり、カップルの15%が影響を受けています。このうち、男性不妊は50%近くを占めています。この論文では、不妊症に関連する生活習慣を考慮し、トレーニングやスポーツが男性不妊症に及ぼす影響について考察することを目的としています。このテーマに関連するヒトおよび動物モデルの研究を収集し、分析しています。
運動は一般的な改善因子としてよく知られていますが、過度の運動は視床下部-下垂体-性腺軸(Hypothalamic–pituitary–testis axis、HPT軸)*機能の低下、酸化ストレスの増加、慢性炎症のために男性不妊を引き起こす可能性があることが示されています。その結果、これらの根本的な影響により、テストステロンの分泌量が低下し、精液の質が低下し、不妊症につながる可能性があります。
一方、肥満や糖尿病などの生活習慣病が原因となっていると考えられる不妊症において、運動が男性ホルモンの状態を改善することが明らかにされています。実際、運動は精巣の抗酸化防御力を高め、炎症性サイトカインのレベルを下げ、ステロイド生成過程を促進することが明らかになっています。生活習慣病で誘発される不妊症において、運動によって精子形成と精液の質を改善することが分かっています。
実際、個人の健康状態、運動量、運動の強さ、運動の継続時間は、男性の生殖機能に共同で影響を及ぼす因子と考えられます。これらの知見から、運動に関する指針を作成するために、あるいは、生活習慣病の治療オプションとして運動を考慮していくために、運動の様々な影響についての研究を臨床試験としておこなっていくことが重要です。
*視床下部-下垂体-性腺軸(Hypothalamic–pituitary–testis axis、HPT軸):脳の一部に視床下部と下垂体というものがありホルモンを作っています。視床下部からゴナドトロピン放出ホルモン gonadotropin-releasing hormone ( GnRH ) が分泌され、下垂体(の前葉)を刺激します。すると、下垂体から性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)である黄体形成ホルモン(luteinizing hormone、LH)と卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone、FSH)が血中に出てきます。LHは精巣に作用して男性ホルモンの一つであるテストステロン(testosterone、T)が分泌されます。TとFSHが精巣に作用して精子が形成されます。精子形成やテストステロンの分泌の状況により、フィードバックがかかり、GnRHやLH、FSHの分泌量が調整されます。この経路をHPT軸と言います。

≪筆者の意見≫

適度な運動というのが精液所見の改善によく、過度の運動はホルモンの異常もきたして、精液所見も悪化させるということがまとめられた総説です。運動とその効果について、論文中にまとめられていた表も紹介しました。精子の数や、運動率だけでなく、精子DNA断片率の改善効果もあることが示されています。男性の生殖機能については、精液所見でみていくしかないのが実情で、運動の結果、妊娠率が改善したかどうかや、生児獲得率が上がったかどうかまでのデータはありません。また、具体的にどのような運動をどのようにすれば良いのかということを言うことはなかなか難しいです。なんでもそうですが、ほどほどが良いということでしょうか。軽い運動から無理のない範囲で少しずつ取り組んでいくことが健康のためにもよいと思います。といっても筆者はなかなか実践できていません。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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