勃起障害と不妊症の保険診療について①

Q:勃起障害は、不妊症の原因になりますか?
A:勃起障害は男性不妊症の原因になり、ホスホジエステラーゼ5阻害薬であるシルデナフィルクエン酸塩(バイアグラ®️)やタダラフィル(シアリス®️)が有効です。

勃起障害(あるいは勃起不全、erectile dysfunction: ED)は、本邦のED診療ガイドラインにおいて「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態が持続または再発すること」と定義されています。我が国の全国調査では、男性不妊症の6.1%が勃起障害によるものとの結果が出ており、重要な疾患です。勃起障害に対してバイアグラ®やシアリス®といったホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5i)が使用され、有効率は86.0%と高い結果でした。さらに、18%で妊娠が確認できたと報告されています。
つまり、不妊症診療において、勃起障害が原因となっている症例は少なくなく、PDE5iは不妊症治療として広く行われているとともに、妊娠に寄与しています。さらに、筆者の施設を2016年以降に受診し男性不妊症外来にて評価し1年以上経過した患者さん(平均年齢36歳)のうち、"SHIM"という勃起についての質問票に答えてもらい、勃起障害と判断された症例は41%に達していました。PDE5iで治療しないまでも潜在的に勃起障害を有する男性不妊症の症例はもっと多い可能性があります。

2021年に公表された我が国の生殖医療ガイドラインにも勃起障害について記載があります。「勃起障害を伴う男性不妊症に対し、ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬は有効か?」という設問があります。答えは、「PDE5阻害薬は、勃起障害を伴う男性不妊症に対して有効である。」となっており、推奨されています。このガイドラインでは、シルデナフィルクエン酸塩とバルデナフィル塩酸塩、タダラフィルが同等の有効性をもつ薬剤として記載されています。
PDE5iは、前立腺肥大症においてタダラフィルを1日5mgで連日内服する治療が認可されているように、比較的安全性の高い薬剤です。PDE5iの主な副作用は、頭痛、ほてり、紅潮、鼻閉、消化不良であり、いずれも一過性で軽度とされています。特徴的なものとして、突然の視覚異常(非動脈炎性前部虚血性視神経症〔non-arteritic anterior ischemic optic neuropathy: NAION〕や、突発性難聴、持続勃起症が見られた場合は、専門医への受診を勧めることが必要です。
併用できない薬剤は、硝酸薬です。併用することにより全身の血管が拡張し急激な血圧低下を引き起こします。PDE5iと硝酸剤又は一酸化窒素(NO)供与剤(ニトログリセリン、亜硝酸アミル、硝酸イソソルビド、ニコラ ンジル等)とを一緒に飲むことにより血圧低下作用が増大し、血圧が大きく下がることがあります。PDE5i投与の前に、硝酸剤又は一酸化窒素(NO)供与剤が投与されていないことを十分確認し、PDE5i投与中及び投与後であっても硝酸剤又は一酸化窒素(NO)供与剤を使用しないように十分注意すること、死亡例を含む心筋梗塞等の重大な心血管系等の副作用が報告されていますので、PDE5i投与の前に、心血管系障害の有無等を十分確認すること、などが添付文書上、警告されています。

参考文献

  • Kimoto Y et al: JSSM Guidelines for erectile dysfunction. Int J Urol. 15:564-576, 2008. PMID: 18643781
  • CQ38勃起障害を伴う男性不妊症に対し、ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬は有効か? 生殖医療ガイドライン、一般社団法人日本生殖医学会編、(株)杏林舎、東京、p141-142、2021年(http://www.jsrm.or.jp/publications/pub_guidelines.html)
  • Yumura et al: Nationwide survey of urological specialists regarding male infertility: results from a 2015 questionnaire in Japan. Reprod Med Biol. 17:44-51,2017. PMID:29371820.

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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