子宮内膜症ガイドライン(ESHRE2022:癌との関係)

子宮内膜症女性で不妊治療が終わった時に、注意事項について聞かれることがあります。内膜症管理について多い質問の一つが「癌の発症リスク」です。
今回のガイドラインにも触れられていますのでご紹介させていただきます。

●子宮内膜症女性はがんのリスクが高いか?

「子宮内膜症は、がんの発症リスクをあげますか」と質問される女性に、子宮内膜症は全体としてがんのリスクが有意に高いとは関連していないことを伝えるべきである。子宮内膜症は、特に卵巣がん、乳がん、甲状腺がんのリスク上昇と関連しているが、一般集団の女性と比較した絶対リスクの上昇は低い(Kvaskoff, et al. 2021)。
強い推奨 ⊕⊕○○
卵巣がん(一般集団 1.3人/100人 →内膜症女性 2.5人/100人)
乳がん(一般集団 12.8人/100人 →内膜症女性 13.3人/100人)
甲状腺がん(一般集団 1.3人/100人 →内膜症女性 1.8人/100人)
大腸がん:リスク上昇なし
子宮頸がん:内膜症女性で低リスク
他のがん:十分な臨床データなし

● 子宮内膜症女性に、がん発症リスクに関してどのような情報を提供しますか?

専門医委員会は子宮内膜症女性にがんリスクに関して正しい知識を伝えたうえで、安心を促すことが必要だとしています。その上で、一般的ながん予防策(喫煙を避ける、健康的な体重を維持する、定期的に運動する、野菜と果物を多く摂取する、アルコールを少なくする、バランスのとれた食事をする、日焼け対策をする)を提案していくことを勧めています。

●癌を発症していない患者の深部子宮内膜症には体細胞突然変異があり、そのなかには既知の癌関連変異(CAM: cancer-associated-mutation)が含まれていると報告されています。これらは卵巣癌の発症や進行の予測因子となりますか?

子宮内膜病変は、サブタイプに関係なく、増殖、老化、酸化ストレスなどによりCAMを生成し、まれにがんを発症するとされています。ただし、現在のところ、
深部子宮内膜症の体細胞突然変異が卵巣癌の発生/進行を予測しうるという証拠はほとんどありません。

●ホルモン治療の使用は、癌のリスクを高めますか?

エストロゲン・プロゲステロンなどのホルモン剤は適切に利用すれば子宮内膜症女性の悪性腫瘍リスクに影響しないことを説明して患者に安心を促すことを勧めています。(Smith, et al. 2003;Zucchetto, et al. 2009;Gierisch, et al. 2013;Havrilesky, et al. 2013;Braganza, et al. 2014;Berlanda, et al. 2016;Wentzensen, et al. 2016;Butt, et al. 2018;Michels, et al. 2018)。
強い推奨 ⊕○○○

●子宮内膜症の女性は、悪性腫瘍の検出のためにモニターされるべきですか?

子宮内膜症があるからといって、通常のがん検診ペースを超えるがん検診を促すべきでない。(Kvaskoff, et al. 2021)しかし、家族歴や他のリスク因子など個々の患者背景に応じて国々のがんモニタリングに従い対応すべきと専門家委員会は推奨する。
強い推奨 ⊕⊕○○

●子宮内膜症に対する手術は、将来のがんリスクを変えますか?

疫学的データでは、子宮内膜症の完全切除は卵巣癌リスクを下げる可能性があることをされています。痛み、卵巣予備能と比較検討する必要があります(Rossing, et al. 2008;Melin, et al. 2013;Haraguchi, et al.2016)。             
強い推奨 ⊕⊕○○

Becker CM, et al. ; ESHRE Endometriosis Guideline Group. ESHRE guideline: endometriosis.
Hum Reprod Open. 2022 Feb 26;2022(2):hoac009. doi: 10.1093/hropen/hoac009.

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

亀田IVFクリニック幕張