正常核型胚移植不成功を踏まえたERA検査の知見(論文紹介)
生殖医療ガイドライン第一版にERA検査が下記のように記載されてから、ERA検査の実施する機関、そして患者様の検査に対する治療の期待が高まったような気がします。
CQ29. 反復着床不全に子宮内膜胚受容能検査は推奨さるか? 子宮内膜胚受容能検査は不妊治療に有効か?
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私たちも一定回数の反復不成功でERA検査を提案しますが、①検査周期と結果待機期間で2ヶ月の時間のロスを生じること、②費用が安くないこと、から、患者様に提案するタイミングを悩ましく感じることが多くあります。ERA検査が正常核型胚の凍結融解移植不成功のある患者とない患者の生児出産を改善するかどうかを検討した報告をご紹介します。
≪ポイント≫
正常核型胚移植の反復不成功回数が増えてもERA検査の非受容期(early/late receptive含む)の割合は増加しませんでした。プロゲステロン注射製剤を使用した黄体補充下でのERA結果調整下胚移植において生児出生数に差がつきませんでした。
≪論文紹介≫
Nicole Doyle, et al. Fertil Steril. 2022.DOI: 10.1016/j.fertnstert.2022.05.013
大規模生殖医療センターで2018年1月から2019年4月までの実施された全ての正常核型胚盤胞の単一凍結融解胚移植を対象としたレトロスペクティブ・コホート研究です。
対照群はERA検査とERA調整下個別化胚移植を実施しました。コントロール群は標準プロトコルの胚移植をおこないました。
主要評価項目は生児出生率であり、副次評価項目は生化学妊娠率および臨床的妊娠率としました。
結果:
307件のERA調整下個別化胚移植と2,284件の標準プロトコルの胚移植を解析しました。125件(40.7%)がERA受容期、182件(59.3%)がERA非受容期でした。
反復不成功数を調整してもERA受容期と非受容期の割合に差はありませんでした。
ERA受容期と非受容期にかかわらず、その後のERA調整下個別化胚移植の生児出生率には差はみられませんでした(48.8%と41.7%、調整オッズ比1.17、95%CI、0.97-1.40)。ERA検査の実施有無に関わらず、生児出生率には差はみられませんでした(それぞれ44.6%と51.3%、調整オッズ比0.87、95%CI、0.73-1.04)。
0回(n=48) | 1回(n=163) | 2回(n=81) | 3回(n=15) | |
受容期 | 33.3% | 42.9% | 41.9% | 33.3% |
非受容期 | 66.7% | 57.1% | 41.9% | 66.7% |
表:正常核型胚移植不成功回数別のERA受容期の割合
≪私見≫
この検査結果をみると、ERA検査を必要な人が数多くいるわけではないことがわかります。国内では先進医療に含まれましたが、世界的には否定的な報告もあることは事実です。
そして、できた胚が貴重胚なら早期にERA検査を実施すべきですし、良好胚が複数あるなら様々な着床不全のオプションを実施してからの検査でもいいような気もします。この治療の黄体補充は連日50mgプロゲステロン筋肉注射、またはプロゲステロン膣剤200mg 2回/日+3日ごとの50mg筋肉内プロゲステロンとなっていて、比較的黄体補充はしっかり行っている印象があります。どちらにしても、企業優先ではないRCTが必要であると感じています。
文責:川井清考(院長)
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