子宮卵管造影(HSG)の合併症(論文紹介)

70年近く前から不妊治療分野では子宮卵管造影が行われてきました。油性造影剤の方が検査後の妊娠率が向上するというメタアナリシス(妊娠継続率OR: 1.47(95%CI 1.12-1.93)、生児出生率 OR: 2.18(95%CI 1.30-3.65);Fangら、2018; Wangら、2019)が報告されていますが、過去に報告された合併症のために、その使用を躊躇してしまいます。当院でも水溶性造影剤を用いた子宮卵管造影を行っています。
油性造影剤も水溶性造影剤も同じような合併症が頻度は異なりますが起こります。
どのような合併症が起こり得るのでしょうか。ご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Inez Roest, et al. Reprod Biomed Online. 2021. DOI: 10.1016/j.rbmo.2021.03.014

1928年から2020年の間に発表された492報告HSG 23,536件(水溶性造影剤は16報告HSG 1975件)の報告を対象としています。

①造影剤の血管内流入
静脈系やリンパ系に造影剤が流入することです。
検査が行われてきた初期とは異なり、透視下で行われていることが増えてきましたので、造影剤が血管に流入する前に検査を中断することが増えてきましたが、もし血管内に油性造影剤が流入すると油塞栓として肺や脳などの臓器に到達し、炎症や血管の閉塞を引き起こす可能性があります。
8報告(3RCTと5コホート研究)では油性造影剤と水性造影剤を使用したHSGの造影剤血管内流入率は2.8%(38/1353)、1.8%(18/1006)(OR 5.05; 95% CI 2.27-11.22)。比較検討ではないコホート研究も加えると油性造影剤と水性造影剤を使用したHSGの造影剤血管内流入率は2.7%(95%CI 1.7-3.8, 絶対イベント発生率 664/19,339)、2.0%(95%CI 1.2-3.0, 絶対イベント発生率 18/1,006)でした。
油塞栓症を発症した女性はHSGあたり0.1%、血管内造影剤流入を認めた症例あたり2.7%でした。このうち6例は肺塞栓症でしたが、他の12例は重篤な副作用が報告されていません。一時的な視力の低下や呼吸器症状、神経症状が報告されたことがあるようです。
②感染リスク
2RCTと18コホート研究から油性造影剤を用いた子宮卵管造影後の感染症の発生頻度には0.90%(95%CI 0.47-1.50、70/11,287)でした。抗生物質予防の使用については系統的な報告はありません。
③死亡事例
油性造影剤を用いた子宮卵管造影後の死亡事例は5例で1942-50年の間に報告されています。4例が感染例、1例が麻酔よるアレルギー反応によるもの考えられています。1950年以降は認められていません。
④脂肪肉芽腫と油脂残渣
3コホート研究、1ケースシリーズ、7ケースレポートから油性造影剤を用いた子宮卵管造影後の脂肪肉芽腫形成41症例を報告している。造影剤の腹腔内残渣は処置後27年まで認めた報告を含めて複数あります。
⑤甲状腺機能障害
子宮卵管造影に用いる造影剤にはヨードが含まれています(リピオドール480mg/mlに対して水性造影剤240-300mg/ml)。ヨード負荷後に甲状腺へのヨード輸送が過剰となり負のフィードバックにより、甲状腺ホルモンの合成が一過性に減少し、潜在的な甲状腺機能低下症の発症につながる可能性(Wolff-Chaikoff効果)、またヨードによる(一過性の)甲状腺機能亢進症もバセドー病女性などで報告されています。

油性造影剤を用いた子宮卵管造影後の胎児甲状腺腫が3症例報告されており、すべて国内からの報告です。2症例は子宮卵管造影を実施した周期での妊娠、1症例は妊娠前1年で3回の子宮卵管造影が行われていました。(Omoto et al., 2013; Sasaki et al., 2017; Yamazaki et al., 2019)。

日本はヨードを多く含む食事摂取習慣がありますのでヨーロッパなどの報告より甲状腺機能障害が高頻度で報告されています。

≪私見≫

卵管疎通性検査は不妊の一次スクリーニングとして大事な位置づけとなっています。どのような検査にも合併症はつきものです。必要性を適切に判断しおこなっていくことが大事だと思います。

文責:川井清考(院長)

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