子宮内膜症があると女性生殖器フローラは変化する?(論文紹介)
子宮内フローラ(マイクロバイオーム)が妊娠率に影響を与えると最近話題によくあがってきます。ただ、子宮内フローラは年齢、食生活、民族などの影響を受けますし、ダイナミックに変化していると考えられているため、生殖結果に直結することを強く示した報告は数多くありません。
しかし、女性生殖器のマイクロバイオームが変化することにより様々な女性生殖器の症状・疾患を引き起こしている可能性は否定できません。
子宮内膜症の女性は、子宮内膜生検、子宮卵管造影、採卵後に、卵巣膿瘍や卵管膿瘍、骨盤腹膜炎を発症することがあります。もしかすると内膜症性嚢胞があると女性生殖器のマイクロバイオームが大きく変化しているのでは?と仮説にしたがって検証した国内からの報告をご紹介します。
≪論文紹介≫
Sugiko Oishi, et al. Reprod Med Biol. 2022. DOI:10.1002/rmb2.12441
2019年7月から2020年4月までに三重大学と琉球大学で卵巣腫瘍の腹腔鏡手術を受けた女性36名(子宮内膜症女性:18名、子宮内膜症でない女性:18名)を対象とした国内で行われた前向きコホート研究です。手術中に腟分泌液、子宮内膜液、腹膜液、卵巣嚢胞液が採取し、細菌16S rRNAの次世代シーケンシングを行い、マイクロバイオームを解析しました。
結果:
子宮内膜症の有無にかかわらず、腹膜液、卵巣嚢胞液のいずれにも特異的な微生物群は検出されませんでした。腟内の感染性細菌量のカットオフ値を64.3%としたところ、子宮内膜症群では感染性細菌量が増加していました(p=0.01)。子宮内膜の感染性細菌数のカットオフ値を18.6%としたところ,子宮内膜症例で感染性細菌量が増加していました(p=0.02)。
腹腔液や卵巣嚢胞液はほぼ無菌状態ですが、子宮内膜症女性では腟や子宮内膜フローラが異常となっている可能性が考えられます。
≪私見≫
子宮内膜症女性では腟や子宮内膜フローラが異常となっているのであれば、広域抗菌薬を用いて治療することより慢性子宮内膜炎などを改善させ、生殖医療成績を改善させる可能性が考えられます。子宮内膜症があるから慢性子宮内膜炎は起こっても仕方ない、抗生剤は効かないという議論は成り立たない可能性があります。この論文を読んで内膜症がある患者様の慢性子宮内膜炎もしっかり治療対象となると考えさせられました。
私自身、内膜症があると女性生殖器のマイクロバイオームが大きく変化するのでは?と思っていたので、この論文はとても勉強になりました。
普段、子宮内フローラの検体を採取する際は、膣内を強く消毒してから子宮内フローラを調べるわけではないためコンタミ(膣内からの迷入)がないのかどうか、実際に行っていても不安になります。ただし、今回は手術中の検証ですので、消毒された状態でも行っています。膣内・子宮内フローラが同様に動いているのであれば、以前のブログでもご紹介したように、膣内環境を整えてあげると子宮内環境も改善するのだろうなと感じます(過去のブログ:細菌性腟症は不妊の原因なの?)
文責:川井清考(院長)
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