卵巣を片方とると体外受精での妊娠率がさがる(論文紹介:メタアナリシス)

様々な場面で卵巣を片方とることを余儀なくされることがあります。
多くの研究が、体外受精の際のゴナドトロピンの量が多くなり卵巣感受性が低下を示唆していること、採卵時の回収卵子数が低下することを示しています。
しかし、動物実験でも片方卵巣をとっても妊娠率が低下しないなど代償的な機構が働く可能性もあります。片方卵巣をとった女性の卵巣刺激・新鮮胚移植の成績をsystematic review、meta-analysisした報告をご紹介します。

≪論文紹介≫

Kenny A Rodriguez-Wallberg, et al. Fertil Steril. 2022. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2022.01.033

2021年6月1日までに発表された研究をデータベース(MEDLINE、Embase、Web of Science、引用文献のデータベース)を検索し、最終的な解析対象は片側卵巣切除既往がある女性の体外受精 1,057周期と、対照女性の体外受精 45,813周期としました。
主要評価項目は、体外受精の生児出生率と妊娠率、副次評価項目は、卵巣刺激時のゴナドトロピン量と採卵あたりの回収卵子数としました。
結果:
研究の質はNewcastle-Ottawa Quality Assessment Scaleによると中程度から高程度と評価されました。すべての研究は観察研究で、バイアスが内在しており、異質性は高いです。
生児出生は、対照群と比較して片側卵巣切除既往がある女性では低く(OR = 0.72, 95%CI: 0.57-0.91, z = -2.72 )、治療開始周期あたりの妊娠率も低くなりました(OR = 0.70, 95% CI:  0.57-0.86, z = -3.35).ゴナドトロピン投与量は片側卵巣切除既往がある女性では多く、回収卵子数は少なくなりました。
・ゴナドトロピン量
片側卵巣切除群、対照群のそれぞれ2,170単位、1,875単位。1992年以降に行われた研究では、それぞれ3,403単位、2,836 単位と共に片側卵巣切除群に高用量投与されています。
・回収卵子数
卵巣刺激による回収卵子数はどの年代・刺激をみても、片側卵巣切除群の平均回収卵子数は低下しています。
・臨床的妊娠率・生児出生率
妊娠率は回収卵子数および移植胚数と相関していました。

≪私見≫

メタアナリシスでは、片側卵巣切除既往がある女性では体外受精の生児出生率・妊娠率、卵巣刺激時のゴナドトロピン量、採卵時の回収卵子数などに悪影響を示すことがわかりました。
この論文には様々な限界があります。あくまで体外受精周期別であり、患者別ではありません。古い論文が多く引用されており、新鮮胚移植でのメタアタリシスであったことなどが現在の治療法とやや異なるところと感じました。

今回の報告者らは自身のコホート研究もおこなっており、年齢、BMI、不妊治療施設を調整し解析しても、片側卵巣切除既往のある女性では体外受精の生児出生率が著しく減少していることを報告しています(Tekla Lind, et al. Hum Reprod. 2018. DOI: 10.1093/humrep/dex358)。今回のメタアナリシスでも大きなウェートをしめている論文ですので、別にご紹介させていただきます。

文責:川井清考(院長)

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