レトロゾールとクロミフェンを連続して一般不妊治療で使うならどっち?(論文紹介)

レトロゾールはoff-labelの卵巣刺激薬ですが、最近では一般的に使われるようになってきましたね。過去の無作為化試験では、PCOS女性において、レトロゾールはクロミフェンと比較して、妊娠率と出産率が高いことが報告されていますが、原因不明不妊症患者では差がありませんでした。医療請求データからレトロゾールとクエン酸クロミフェンの排卵誘発剤を連続して6サイクルまで投与した女性の妊娠成績を比較した報告をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Jennifer J Yland, et al. Hum Reprod. 2022. DOI: 10.1093/humrep/deac005

排卵誘発のためのレトロゾールとクエン酸クロミフェンの比較効果を検討する仮想的な試験を行うため、米国の大規模な医療費請求データベース(2011~2015年)を使用しました。2011~2014年にレトロゾールを開始した女性18,120人とクロミフェンを開始した女性49,647人のデータを分析しました。年齢は18~45歳で、糖尿病、甲状腺疾患、肝障害、乳がんの既往はなく、試験開始前3カ月間は不妊治療を受けていない女性としました。クエン酸クロミフェンまたはレトロゾールを6サイクル連続で投与した群に対して妊娠、出産、多胎妊娠、早産、早産、NICU入室、先天性奇形を評価項目としました。
結果:
妊娠、出産、新生児のアウトカムの推定確率は、全体的にも原因不明不妊患者においても同程度でした。PCOS女性では、intention-to-treat解析において、累積妊娠率はレトロゾール43%、クロミフェン37%(リスク差[RD]= 6.0%、95%CI:4.4、7.7)、累積生児出産率はレトロゾール32%、クロミフェン29%(RD = 3.1%、95%CI:1.5、4.8)でした。per protocol 解析では、多胎妊娠 19% vs. 9%、早産 20% vs. 15%、SGA 5% vs. 3%、NICU入室 22% vs. 16%、先天性奇形 8% vs. 2%でした(レトロゾール vs. クロミフェン)
結論:
PCOS女性では、妊娠、出産、多胎妊娠、早産、早産、NICU入室、先天性奇形のリスクは、クロミフェンと比較してレトロゾールの方が高くなりましたが、原因不明の不妊症の被験者には治療法の違いによって差が認められませんでした。

≪私見≫

PCOS女性に対するレトロゾールの有用性は間違いなさそうですね。
過去の主な無作為化試験は3つあります。
クロミッド治療に抵抗性の女性36名をレトロゾール群とプラセボ群にわけてプラセボ群は妊娠例がいなかったけれど、レトロゾール群では33.3%排卵するという報告(Kamath MS, et al. Fertil Steril 2010)からはじまり、PCOS女性159人を最大6回の排卵周期までレトロゾールまたはクロミフェンに無作為に割り付け、生児出産率はレトロゾール群で49%、クロミフェン群で35%であった報告(Amer SA, et al. Hum Reprod. 2017)、 750人のPCOS女性をクロミフェンまたはレトロゾールのいずれかを最大5サイクル投与するように無作為に割り付け、妊娠率はレトロゾール群で31%、クロミフェン群で22%、生児誕生の確率はそれぞれ28%、19%という報告(PPCOS II trial: Legro RS, et al. N Engl J Med 2014)です。
唯一、今回の報告で今までの報告と異なったのはレトロゾール群でクロミフェン群より多胎発生率が18.6% vs. 9.1%と高く、その結果として周産期合併症が増えた点です。多胎率が18.6%は生児出産した女性あたりで考えても体外受精の複数胚移植でも中々起きませんので、データ解析上のエラーではないでしょうか。臨床を行っていると、レトロゾールで複数排卵する人がいるものの、そこまで多くないため、そこにだけは作用機序などから考えても違和感があります。PPCOS II trialでもレトロゾール群とクロミフェン群の多胎発生率は3.9% vs. 6.9%とクロミフェン群の方が高くなっています。
自施設データも見直してみたいと思います。

文責:川井清考(院長)

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