食事とライフスタイル(2022年改定:ASRM推奨)

「Optimizing natural fertility: a committee opinion 」としてアメリカ生殖医学会より2008年、2013年、2017年、2022年と改訂を繰り返しています。
2017年に比べ食事に関する書き込みが大幅に増えましたが、「結論が出ず」というのが答えのようです。ここで言えることは妊娠向上のためには健康的な生活習慣を身につけましょうということです。私自身、患者様に「日常で何かできることがありますか?」とよく聞かれるので、「大量のサプリメントを飲むような偏った生活をするよりは、健康を害するような習慣を減らすこと」を勧めています。

Fertil Steril. 2022  DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.10.007

①食事

非常に痩せた女性や肥満の女性では妊娠する力(妊孕能)が低下しますが、食生活を変えることで、排卵障害のない女性の妊孕能に及ぼす影響に関するデータはほとんどありません。
魚介類の大量摂取による血中水銀濃度の上昇は、不妊症と関連するとされています。
妊娠を希望する女性は、神経管欠損症のリスクを減らすために、葉酸サプリメント(1日400mcg以上)の摂取をすべきとされています。
複数のコホート研究で、地中海食、オランダ式ダイエット、妊活食などの食事パターン、栄養素の不妊症との関連が評価されていますが妊娠に対して効果がある、ない双方向の意見があり本当に効果があるかどうかはわかっていません。
Nurses' Health Study IIでは、トランス脂肪酸(マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングなど)よりも一価不飽和脂肪酸(主にオレイン酸で、オリーブオイル、キャノーラ油、なたね油などに多く含まれます)、動物性たんぱく質よりも植物性たんぱく質、血糖値を上げにくい炭水化物(玄米、全粒粉、そばなど)、高脂肪乳製品、マルチビタミン、鉄分を多く摂取することを奨励する研究者が定義した「妊活食」の効果が評価され、排卵機能障害に関連する不妊症のリスク低下と関連することが示されました(RR 0.34、95%CI、0.23-0.48)(Chavarro J.E. et al.Obstet Gynecol. 2007)。
個々の栄養素で言うと、マルチビタミン、葉酸、長鎖オメガ3脂肪酸、全脂肪乳製品、全粒穀物、野菜、魚、大豆イソフラボンなどの栄養素が妊孕性に良いとされていて、トランス脂肪酸、肉類、炭水化物、高GI食品などの栄養素が妊孕性に悪いとされています。
一般的に、健康状態を良くするために食事やライフスタイルの改善が推奨されることはあっても、食事やライフスタイルへの介入が妊孕能向上に直接寄与する証拠はありません。

②喫煙

喫煙は妊孕能に大きな悪影響を及ぼします。
10,928人の喫煙女性と19,128人の非喫煙女性を比較した大規模なメタアナリシスでは、喫煙女性は不妊になる可能性が高いことがわかりました(OR 1.60;95%CI、1.34-1.91)。喫煙女性は非喫煙女性に比べて閉経が平均して1~4年早いという観察結果は、喫煙が卵胞減少の速度を速めていることを意味しています。また、喫煙は、自然妊娠および体外受精による妊娠のいずれにおいても、流産リスクの増加と関連しています。
喫煙男性では、精子濃度や運動率の低下、精子の形態異常の増加が観察されていますが、喫煙が男性の生殖能力を低下させることを決定的に示すデータはありません。

③アルコール

女性の妊孕能に対するアルコールの影響は、明確には確立されていません。
アルコールには有害だと結論づけた研究がある一方で、アルコールが妊孕能にプラスに働くとした研究もあります。ストックホルムの女性7,393人を対象とした前向き調査では、アルコール飲料を1日に2杯飲む女性では不妊症のリスクが有意に増加し(RR 1.59;95%CI、1.09-2.31)、1日に1杯以下の女性では減少した(RR 0.64;95%CI、0.46-0.90)ことが観察されました。他の研究でも、アルコール消費量増加と妊娠率の低下の傾向が示されています(Eggert J,et al.Fertil Steril. 2004、Jensen T.K., et al.Bt Med J. 1998、Hakim R.B., et al.Fertil Steril. 1998、Hassan M.A., et al.Fertil Steril. 2004)。
その反面、デンマークの妊娠女性29,844人のから自己申告アンケートでは、ワインを飲む女性はアルコールを飲まない女性よりも妊娠までの期間が短いこと とした報告もあります。(Tolstrup J.S. et al.Acta Obstet Gynecol Scand. 2003)
女性の多めのアルコール摂取(1日に20g以上のエタノールを含む:お酒の量(ml)×[アルコール度数(%)÷100]×0.8:ビールなら中瓶1本、日本酒なら一合、ワインなら1/4本、缶酎ハイならロング缶1本程度)は、妊娠を試みる間は避けたほうがよいと思われますが、それ以下のアルコール摂取が妊娠に悪影響を及ぼすことを示す証拠は限られています。もちろん、アルコールは胎児発育に有害な影響を及ぼすことが十分に証明されているため、妊娠中はアルコール摂取を完全に止めるべきとされています。
男性の定期的なアルコール摂取は、精子数、精子運動能、精子形態異常、精液量、および血清テストステロン値の低下と関連しています。ある研究では、アルコール摂取量の多い男性のパートナーは、アルコール摂取量の少ない、もしくは摂取しない男性パートナーに比べて、妊娠までの期間が長いことがわかっています(Hassan M.A., et al. Fertil Steril. 2004)。中程度のアルコール摂取が、どの程度、男性の生殖能力に影響を及ぼすかはわかっていません。また、アルコール依存は、男性および女性における性機能障害のリスクの増加と関連しており、射精障害、早漏、性欲減退、性交疼痛、膣乾燥などのリスクが増加するとされています。

④カフェイン

多めのカフェイン消費(500mg;1日あたりコーヒー5杯以上またはそれに相当する量)は、妊孕能の低下と関連しています(OR、1.45;95%CI、1.03-2.04)。
妊娠中、1日200~300mg(1日2~3杯)を超えるカフェイン摂取は、流産のリスクを高める可能性がありますが、先天性異常のリスクには影響しないとされています。
全体的に見て、妊娠前または妊娠中の適度なカフェインの消費(1日1~2杯のコーヒーまたはそれに相当する量)は、妊孕能や流産に影響を及ぼしません。
カフェイン消費は、男性の精液所見には影響しません。

⑤大麻およびその他の娯楽用薬物

妊娠を希望する男女には推奨されていません。

⑥環境への暴露

ポリ塩化ビフェニルなどの特定の内分泌撹乱化学物質に曝されると、女性の生殖能力に悪影響を及ぼす可能性があります。
大気汚染(二酸化窒素や微小粒子状物質への妊娠前および妊娠初期の大量の曝露)に曝される女性は、妊孕能が低下し、流産のリスクが高くなることが報告されています。
また、男性でも精子のDNA断片化や精子形態異常や運動性の低下、生殖ホルモンレベルの変化などが指摘されています。

文責:川井清考(院長)

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