自然妊娠するために知っておくこと(2022年改定:ASRM推奨)

「Optimizing natural fertility: a committee opinion 」としてアメリカ生殖医学会より2008年、2013年、2017年、2022年と改訂を繰り返しています。
この内容は、子供がほしいと思った時に一番初めにつける知識だと思いますが、これに従っても妊娠しない場合は、やはり何かしらの不妊スクリーニング・介入が必要なんだと思います。

①夫婦の年齢について

  • 避妊をしないで夫婦生活をもつと、妊娠率は最初の数カ月間が最も高く、その後は徐々に低下します。約80%のカップルは、妊娠を試みた最初の6ヵ月間に妊娠しますし、1ヵ月あたりの妊娠率は最初の3ヵ月間が最も高くなります。
    妊孕性は20代後半から30代前半のピーク時と比較して、40歳では約半分に減少します。
  • 出生率は女性でも男性でも加齢と共に減少しますが、年齢の影響は女性の方が顕著です。妊孕性は20代後半から30代前半のピーク時と比較して、40歳では約半分に減少しますし、流産率は上昇します。男性の精液所見は35歳を過ぎると低下を認めますが、男性の妊孕性は約50歳までは大きな影響を受けないようです。

②妊娠しやすい期間

  • 妊娠しやすい期間は、排卵日を含む6日間とすることが一般的です。理論としては卵子・精子が共に生存しやすい期間とされています。不妊症ではない女性221人を対象とした研究では、排卵前2日以内に夫婦生活をもった場合に妊娠率がピークとなりました。妊娠率は、排卵日前日に夫婦生活をもった場合が最も高く、排卵日に夫婦生活をもった場合は低下し始めます。(Wilcox A.J.et al. N Engl J Med. 1995、Dunson D.B., et al. Hum Reprod. 1999)。
  • 女性年齢は、妊娠しやすい期間の長さや時期に影響を与えないとされていますが、妊娠率は年齢の増加とともに低下します。

③夫婦生活の頻度

  • 男性の5日以上の禁欲期間は精子数に悪影響を及ぼす可能性がありますが、2日程度の禁欲期間であれば、精子濃度は正常です。頻繁な射精することが男性の生殖能力を低下させるというのは誤解です。約10000の精液を分析したレトロスペクティブな研究によると、精液の質が正常な男性では、毎日射精しても精子濃度と運動性は正常に保たれていました。また、乏精子症の男性では、毎日の射精で精子濃度と運動性が高くなることもあります。
  • 妊娠しやすい期間に毎日夫婦生活をもつことは、妊娠率をわずかに上昇させる可能性はありますが、夫婦生活の頻度に関する具体的な推奨することは、カップルに不必要なストレスを与える可能性がありますので注意が必要とされています。
  • ある研究では、妊娠しやすい期間に連日、1日おき、3日おきに夫婦生活を行った場合、妊娠率は同程度でしたが、期間中に1回しか夫婦生活を行わなかった場合には妊娠率は低下しました。ご夫婦には効率を重んじるなら、妊娠しやすい期間に1~2日おきに夫婦生活を行うと最も高くなることを伝えておく必要がありますが、最適な夫婦生活の頻度は夫婦で最終的には話し合っていただくことが好ましいかもしれません。

④妊娠しやすい期間を認識する方法
妊娠しやすい期間を認識する方法には、カレンダー法(スマートフォンアプリを使用する場合と使用しない場合があります)、子宮頸管粘液モニター、排卵検査キット、基礎体温などがあります。

  • カレンダー法は色々な測定法がありますが、通常は黄体期の長さは約14日と推定し予測することが一般的です。28日周期の場合の排卵日は14(28-14)日目で妊娠しやすい期間は9〜14日目、30日周期の場合の排卵日は16(30-14)日目で妊娠しやすい期間は11-16日目とします。カレンダー法を用いたスマートフォンアプリは普及していますが、アプリによる微調整が従来のカレンダー法より有用というわけではありません。949人のボランティアを対象に、尿中排卵検査薬と複数の異なるダウンロード可能なカレンダーアプリを比較した研究では、排卵日の予測精度は最大で21%でした。妊娠しやすい期間は周期によって変わりませんが、月経周期の長さは体調などによって変化するため、アプリの有無にかかわらず今までの周期から排卵しやすい期間を予測するカレンダー法でフォローできないウィークポイントとなります。
  • 排卵検査キットの多くのものは尿中LH排泄量をモニターして排卵日を判定します。数多くの研究により尿中LHサージを検出する方法の精度が検証されていますが、排卵は排卵検査キットが陽性になってから2日間のいつ排卵するかはわかりませんし、検査の偽陽性は周期の約7%に見られます。それでも排卵検査キットの使用は、妊娠までの期間を短縮することが無作為化比較試験で示されています。
  • 子宮頸管粘液のチェックは、排卵が予想される時期を示す安価で主観的な指標となります。確率が最も高いのは、粘液がスベスベしていて透明な場合です。子宮頸管粘液量は、排卵前5〜6日の血中エストロゲン濃度とともに増加し、排卵前2〜3日以内にピークに達します。1,681周期のレトロスペクティブコホート研究では、粘液量がピークに達した日(0日目)に夫婦生活をもった場合に妊娠率は最も高く(約38%)、ピークの前日または翌日には低く(約15%〜20%)なることが観察されています。また2,832周期を対象としたプロスペクティブな研究では、子宮頸管粘液の特性の変化はカレンダー法よりも正確に妊娠しやすい期間を予測することが観察されました。
  • 妊娠しようとすることに関連するストレスは、性的自尊心、満足度、および夫婦生活頻度を低下させます。あくまでカレンダー法、排卵検査キット、子宮頸管粘液検査は効率よく夫婦生活を持つ時期がいつかを調べる検査であって、強制的に夫婦生活をもつために行うわけではないことを理解しましょう。

⑤夫婦生活の習慣
夫婦生活中もしくは後の過ごし方が縁起を担ぐ儀式のようになりがちです。

  • 夫婦生活後にしばらく仰向けになっていると、精子移動が容易になり、精液が腟からこぼれるのを防ぐことにより妊娠率に寄与すると考えがありますが、根拠は何もありません。精子は排卵期には15分以内に卵管内に認めるとされていますし、報告によっては、わずか2分で卵管に運ばれることが観察されたとする報告もみられます。興味深いことに、精子は排卵する卵胞を含む卵巣側の卵管で優位に観察されること、発育卵胞の大きさによって卵管に到達する精子数が増えることも確認されており、子宮には精子を適切な卵管に移送させるメカニズムがあるのではと考えられています。
  • 夫婦生活時の体位が妊娠率に影響を与えるという根拠はありません。精子は体位に関係なく、射精の数秒後には頸管内に見られます。
  • 女性のオルガスムは精子の移送を促進するかもしれませんが、オルガスムと妊娠率の関係はわかっていません。
  • 特定の性行為の方法と胎児の性別との関係を示す強い根拠はありません。生み分けできる根拠ある方法はないということになります。性別は男性・女性のどちらかですので、ある一定の方法を信じて行うと妊娠した場合、50%は期待する性別の子供が授かることになります。
  • 腟潤滑剤の中には、試験管の試験で精子の生存率に影響を与えるものがあり、妊孕性を低下させる可能性があります。市販の水性潤滑剤は、試験管の試験では60分以内に精子の運動性を60%から100%阻害しますが、キャノーラ油には同様の有害な影響はないとされています。そのほか、ミネラルオイルやヒドロキシエチルセルロースベースの潤滑剤も精液所見に明確な悪影響を及ぼしません。腟潤滑剤と妊娠率の関係をみた論文では影響がないという報告が一般的となっています(Steiner A.Z. et al. Obstet Gynecol. 2012. McInerney K.A. et al. BJOG. 2018)。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

亀田IVFクリニック幕張