100%の尾部奇形精子の分娩報告例がTranslational Andrology and Urologyにpublishされました。
論文は日々の臨床業務を行いながら、勤務外の早朝、深夜、日曜日に取り組みます。過去の報告を調べ、必要な情報を収集するところから開始し、自分たちの伝えようとしていることが間違っていないかどうかを調査します。論文執筆の際には患者様、そして、病院の倫理審査委員会の承諾もえながら行なっていきます。それでも、地域や時間を超えた、どこかで論文を読み助かる患者様が一人でも増えればという気持ちで行なっています。
今回、論文執筆を行った斎藤くん、初論文受理おめでとうございます!そして、今回の論文執筆に全面的にご協力いただいた東京医科歯科大学 辰巳先生、千葉大学 小宮先生をはじめとする皆様 本当にありがとうございました。
(内容)
奇形精子症は精子の形態学的な異常であり、頭部と尾部の奇形に分類されます。頭部奇形は精子の染色体異常との関連が示唆され研究が進んでいますが、尾部奇形の報告は数多くありません。尾部奇形では鞭毛の運動能異常をきたし、精子無力症の原因になります。尾部奇形の一つに、精子尾部にある線維鞘の欠損が知られています。線維鞘は精子尾部の軸糸を取り囲む付属物の一つとして尾部主部を構成し、精子に可塑性を与えるために必要な構造体です。また、線維鞘は精子の運動エネルギーの産生に関与していることがしられており、線維鞘の構造が乱れると精子運動能に異常をきたします。
線維鞘の異形成を伴う患者さまでは精子の運動能力が低下し、IVF(媒精)では受精が困難となることが問題となります。なので、線維鞘の異形成を診断した場合には、その中でより良好な精子を選別するためICSI(顕微授精)を選択することを検討することが望ましいという報告があります。形態不良精子が多い場合ではその中でより形態が良好な精子を優先してICSIを行うが、すべての精子に尾部異常があるケースは一般的に想定していいません。また、ICSIにおいて形態異常精子を使用して分娩まで至った報告はほとんどなく、また古い報告が多いため精子に関する情報が少ない場合が多いです。今回、私たちは、尾部中部から細径化する奇形率100%の線維鞘の異形成を伴う精子を用いて顕微授精を行った結果、正常妊娠し分娩まで至った症例を報告しました。
論文URL:http://tau.amegroups.com/article/view/34120
文責:川井(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。