卵巣刺激のゴナドトロピンの使い方の注意点(論文紹介)
私たちは体外受精の卵巣刺激を行う際に、AFCとAMHをみて卵巣刺激の種類とゴナドトロピン(FSH、HMG)投与量をきめるのが一般的です。特殊な例を除き、一定数の卵子を回収した方が一回あたりの採卵での出生率が上昇するため、一日のゴナドトロピン量をどうするか、採卵決定時期をどのように調整するかなどクリニックの実績と患者様の特徴にあわせて微妙に変化させているのがクリニックの治療成績につながっていくと思います。今回の論文は、学術的に優れているかどうかは不明ですが、私たちが行っているゴナドトロピンの使用方法による結果を示した報告をみつけましたので、ご紹介いたします。
≪論文紹介≫
Gonullu DC, et al. J Assist Reprod Genet. 2021. DOI: 10.1007/s10815-021-02220-2
Sethi A, et al. J Assist Reprod Genet. 2021. DOI: 10.1007/s10815-021-02329-4
2546名の患者カルテを確認し、女性年齢、卵胞期FSHおよびエストラジオール(E2)濃度、投与したゴナドトロピンの総量、ゴナドトロピン投与日数、1日あたりのゴナドトロピン投与量を調べ、使用したトリガー法(hCG群、GnRHa群、ダブルトリガー群)に応じて3つの異なるクラスに分類しました。多重回帰法を用いて、刺激パラメータと回収卵子数、未熟卵子数、未熟卵子の割合を調べました。
結果・結論:
ゴナドトロピン総投与量が多いほど、回収卵子数が少なく、未熟卵子数が少なく、未熟卵子割合が少ない。
ゴナドトロピン1日投与量が多いほど、回収卵子数が少なく、未熟卵子が多くなり、未熟卵子割合が高くなる。
ゴナドトロピンの投与日数が短いと、未熟度が高くなる。
この報告はSethi Aによって、現在は卵巣刺激を行うならAMH、AFCをみて判断する流れであるのに考慮されていない、卵巣刺激の成熟率などは方法によって異なるため個別の解析が必要であるなどコメントが寄せられていて、本当に学術的にはその通りだと感じています。
≪私見≫
どんな治療も同じように見てて些細な判断が無限に存在します。
むやみやたらと1日のゴナドトロピン投与量を増やせばいいというものではありません、迷ったら採卵日を一日のばしましょう、AFCが少ない場合や女性年齢が高い場合は無意識にゴナドトロピン投与量が増えてしまっていると意識して治療プランをたてましょうと当院の卵巣刺激決定判断の材料にしていますが、今回の論文では、その経験的な部分を説明するような結論になっていて、とても勉強になりました。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。