施設のICSI受精率が患者の累積出産率に影響する?(論文紹介)

国内には2021年現在、600近い体外受精クリニックがあります。患者様によりよい医療を提供するために医師だけではなく看護師・培養士とも様々なクオリティーコントロールを行なっていくことが大事とされています。その中の一つにクリニックの培養環境の安定性を評価するVienna Consensusがあります。ヨーロッパ生殖医学会が推奨する基準ですが、私たちもクリニックの質の評価のために日々管理しています。今回、ICSIの受精率の良し悪しが最終的なクリニックの累積出産率に関連するかどうか評価した報告がでてきましたのでご紹介させていただきます。

≪論文紹介≫

Giulia Scaravelli, et al. Fertil Steril. 2021.DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.04.006

累積出生率の予測因子としての顕微授精(ICSI)の受精率が役に立つかどうかを評価することを目的として、イタリアの体外受精10施設で行われた多施設共同レトロスペクティブコホート研究です。9,394回のICSIを実施した7,968組の不妊カップルで検討しています。
評価項目としてICSI受精率(65%未満:グループ1、65%~80%:グループ2、80%以上:グループ3)と関連した累積出生率を主項目とし、女性年齢(34歳未満、35~38歳、39~42歳)、回収卵子数(5~7個、8~10個、10個以上)にわけて層別化しました。
結果:
累積出生率はICSI受精率と関連し高くなりました(累積出生率:65%未満:20.1%、65%~80%:34.7%、80%以上:41.3%)。回収卵子数、1周期あたりの有効胚数も増加するにあたり累積妊娠率が上昇しました。母体年齢が上昇すると累積出生率が低下しましたが、どの年齢層をみても受精率が高い郡は累積出生率が高くなりました。多変量ロジスティック回帰分析では、ICSI受精率が累積出生率に影響を与える独立因子であることがわかりました。
結論 :
ICSI受精率と施設の累積出生率には正の相関があることが示されました。

今回の対象症例は18歳から42歳までのすべての女性を対象としました(平均年齢36歳前後)。解析対象から除外されているのは、TESE症例、がん・生殖症例、採卵したけれど移植できなかった症例、PGT症例、IVF症例、治療は完結していない症例です。

≪私見≫

今回の結果は当然の結果だと思います。受精率が高くなると、結果として有効胚数、移植数も増えるわけなので。65%と80%がカットオフとして採用されたのもVienna ConsensusでICSI受精率のcompetency 基準、benchmark基準と設定されているからです。多変量解析の結果、ICSI受精率が65%未満の施設にくらべて65-80%の施設では2.14倍、80%以上の施設では3.08倍に累積出生率が上昇しています。
当院でも日々、胚培養師が一人でも多くの患者様を助けたい一心で研鑽している姿を見ているので、このような結果が出てくるのは本当に嬉しい限りです。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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